明日の広告

Esquireのような雑誌ですら休刊という、広告業界の冬の時代(というか春はもう来ないことがわかっているので、正確に言うと氷河期の時代)にあって、これからの広告は、どうあるべきかを、まじめにかつ軽妙に論じている本。今、出版業界では、特に雑誌をつくってる人たちにこの本がよく読まれているんだそうです、ということを教えてもらったので読んでみました。
たとえがよく使われるのですが、わかりやすくて結構おもしろいです。
たとえば広告というものはラブレターにたとえられます。

昔のあなたはモテていたので、ラブレターが相手の手に渡りやすかったし、他に楽しいことが少なかったのでラブレターはとても喜ばれたし、渡したラブレターを相手がちゃんと読んでくれていた、そんな時代だった。
今はラブレターは相手の手に届きにくくなったし、他に楽しいことが山とあり、相手はラブレター自体に興味をなくしているし、ラブレターを読んでくれたとしても口説き文句を信じてくれなくなったし、しかもラブレターを友達と仔細に検討し、判断を友達にまかせたりするようになってしまった、つまりもうモテなくなった!そういう時代になってしまった。

広告の本質というべき深い部分までの分析は鋭く、消費者はどのように変化していったのか、どのメディアをどのように使い分けていくのが効果的なのか、次の時代の広告はどのような姿になっているのか、もしくはしていくべきなのか、ラブレターのようなわかりやすい例えと、著者が実際に手がけたスラムダンク一億冊ありがとうキャンペーンの具体的事例なども交えながら前向きに説明されていて、とても勉強になりました。
私がこの本を読んでいてハッと気づかされたのは2つ。
ひとつ目は、テレビの力はなぜ弱くなったのか、なぜテレビは時代を創りだすチカラを圧倒的に失ってしまったのかという点についての考察。
それはテレビ自体に問題があったわけではなく、見る側の問題、つまりお茶の間が消滅してしまったことに原因があるという指摘。テレビのチカラは実はお茶の間の口コミに依存していたという指摘はもっともで、非常に納得しました。お茶の間が崩壊した都市部よりもまだお茶の間が残っている地方のほうがテレビCMのチカラが絶大で、「地方がテレビCMが狙い目で、都会はクロスメディアで」という広告戦略が有効なのもうなずける話です。またテレビ広告の未来形ということでは、新しく出現したニコニコ動画2chの実況板に代表される「ネオ茶の間」、そして9テラバイトの要領をもつHDDレコーダーの出現で、これもまた近いうちに大きく変わるだろうという話も実に興味深かったです。
もうひとつは、相手の心を動かさない限りそれはただのインフォメーションであり、広告ではないという話で、著者はこんな例をあげていました。

たとえばレストランに客が来るでしょ。来た客をもてなしていっぱい食べてもらい、気持ちよく帰ってもらうのがコミュニケーションデザインだったとする。客の先手先手を読んで、タイミングよく料理を出し、さっとワインを注ぐ。そのスマートな接客にきっと客は満足する。それはそれでいいコミュニケーションだと思う。でもね、客を感激させるもうひとつ上のもてなしが存在すると思う。たとえば料理をだすときにその食材がいかに良いものかをニコニコ話して伝えるだけで、その客は料理を2倍おいしく感じる。ワインを出す時に、そのワインのエピソードを美しく印象的に話したら、その客はもっと気持ちよく酔える。もしかしたらそういうサービスを気に入って再訪してくれるかもしれない。それは単にスマートでそつのない給仕だけではできないひとつ上のレベルのもてなしだと思う。

よく陥りがちな盲点として「スマートでそつのない給仕」で終わってしまってはいないか?と著者は問いかけます。

それはそれで相手にしっかりメッセージが届くし、素晴らしいサービスである。でもそれ以上の効果はない。それは広告ではなく、ただのインフォメーションなのだ。相手の心を動かすことはできない。

これは、広告という話の枠を超えて、小売業をやってる自分の胸にも刺さる言葉でした。反省です。
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