②出版社別陳列は、本当に悪者でしょうか?

今回は、出版社別陳列の長所と短所について検証してみましょう。まず短所から。
1 同じ作家の本があちこちにちらばってしまう
これは大きな欠点ですね。やはり司馬遼太郎の「燃えよ剣」と「新選組血風録」は隣に並んでいるべきですし、小野不由美の「魔性の子」と「十二国記」は隣に並んでいてほしい。人気作家であればあるほど複数の版元から著作が刊行されるので、そういうケースが増えていきます。宮部みゆきなんて揃えようと思ったら、新潮文庫に角川文庫、講談社文庫に光文社文庫集英社文庫に文春文庫に中公に朝日にPHPの棚まで見ないとあかんわけですから、これはファンにとってはめちゃくちゃ理不尽です。「模倣犯」が文庫化されたら、小学館文庫まで見ないといけません。何がどの出版社で文庫化されてるか、なんて全部把握している人は一般のお客様には少ないわけですから、売場としては不親切ですよ。これは確かに。
2 大手出版社の文庫が優遇され、小出版社の文庫が差別的待遇を受ける
まぁ、どの店に行っても講談社、角川、新潮あたりがVIP待遇で、文春、集英社幻冬舎あたりがそれに続き、光文社、扶桑社、早川、創元推理、みたいな序列になっておるのではないでしょうか。個店差はあると思いますが、上位グループは多分変わらないでしょう。どこの店に行っても文庫棚の大部分が、これらの文庫で埋まっています。何故そうなってしまうのかというと、大手版元の単行本(特に文芸書ですね)の初回配本冊数が、その店のその出版社の文庫売上冊数に基づいたランク表で決定されるからなのであります。例えば講談社村上春樹の新刊を出すことになったとする。ベストセラー間違い無しだとする。どの書店もたくさん欲しいと思っているとする。しかし最初に店に送品されてくる冊数がどうやって決まるかと言えば、講談社文庫を何冊販売したかで割り振られて送られてくるわけです。この新刊文芸書の送品冊数は勿論文芸書の売上に響くわけですから、文庫の売上が悪いと、文芸書の売上にも影響してきちゃうということになります。だから書店は、文芸書ベストセラーをよく出す大手の文庫本を必死で売ろうとするわけですね。そうなってくると、その煽りを受けるのが小出版社の文庫本です。大手最優先のため、割かれる棚スペースが必要以上に削られる傾向にあります。するとですね、司馬遼太郎の「韃靼疾風録」みたいな名作が、マイナーな中公文庫である、というそれだけの理由で書店から消えていってしまうわけですよ。これは勿体無い。政治的な理由で販売機会が抹殺されるわけですから。
3 品揃えの選択権が出版社に握られてしまう
一覧表発注書で欠本チェックして上位ランクを発注して、前平のフェアを次のやつと入替えて・・・、というのが虚しくなる瞬間が書店員には時折訪れます。棚の在庫も平台の在庫も出版社指定のものを並べているだけ。これじゃ自分の売りたい本が売れないじゃないか!ってやつね。
こういう1、2、3な欠点は、やはり提案力あふれる書店員にとっては、許しがたいことのように思えるのでしょう。このへんを重視するとじゃあ著者別陳列じゃぁ!ということになるわけです。では反対に出版社別陳列の長所を考えてみましょう。
1 見た目が綺麗
出版社別陳列だと背表紙のデザインが統一されていますから並べると綺麗に整理されているように見えます。これはとても重要なポイントです。意外と見落としがちなのですが、お客様の購買意欲というのは、売場が綺麗かどうかという部分に直結しているんですね。つまりたとえ目的の文庫があったとしても、「売場が汚くて探す気になれない」とお客様が思った時点で、勝負にならないわけです。
2 オペレーションスピードが速い
これも重要でしょう。多くの店が文庫の欠本補充に一覧表発注書を使用していると思いますが、この発注書は当然出版社別にあるわけなので、出版社別陳列のほうがオペレーションスピードが圧倒的に速い。発注だけでなく、返品も品出しのスピードも圧倒的に速いのです。限られた人件費を可能な限り有効に使おうとするのであれば、作業スピードが速い方がいいのに決まっています。著者別陳列にしてみたら、発注や品出しに時間がかかりすぎて、欠本補充が追いつかず、品揃えが悪くなってしまう、なんてことがよくあります。そうなったら逆にお客様へのサービスレベルも低下するし売上も下がって本末転倒ですね。管理能力に自信がない店は出版社別陳列が無難です。
3 出版社別在庫構成比がわかりやすい
これは特にOPEN時に必要になる指標なのです。文庫の初回配本ランクは実績で決まりますが、新店の場合は実績がないので見計らいで決めます。その際の参考指標で、自社の文庫が何スパン売場に確保されているか?で配本ランクが左右されるのですね。その際に出版社別でないと結構つらいのです。著者別陳列の店には配本が減ります。そうすると⇒売り切れる⇒お客様不満足⇒売上あがらない⇒配本ランクあがらない⇒売り切れる・・・という悪魔のサイクルに入るリスクがあります。「売り切れる」ならまだしも「そもそも入ってこない」になったら手遅れです。
4 平台のフェア展開がやりやすい
出版社の文庫のフェア企画は当然出版社別になるのですが、大きいものはイベント台で展開するとして、小さいものは棚前の平台でやることが多いです。フェアというのは大抵テーマで組まれているので、フェア展開されている文庫棚前平台は、フェアテーマの統一帯がついたものがズラズラ並びます。ですが、これが著者別になると途端にできなくなります。ということは、平台展開がやりやすい、これも出版社別陳列の長所一つと言えるでしょう。
5 腐った在庫がたまりにくい
各出版社別にスパン数が決まっている場合は、そのスパン数にあわせて在庫を調整することが可能になります。そうすると、自然と出版社単位で一番回転の悪い商品を抜き取って新しいものを入れるというサイクルが成り立つので棚在庫が腐ることは、あまりありません。
6 長大な棚にならない
講談社文庫とか角川文庫のような大手でも、数スパン内に売場はおさまります。人間の行動心理学的に見て、目的物を探す時は行動範囲を限定したいという欲求があります。文庫が20スパンも30スパンもある広い売場の中でいきなり目的物を探すのは大変だけど、あらかじめ見当をつけてから探した場合は、効率もいいし探しやすいのです。例は悪いのですが、例えば東京ドームの座席番号がすべて通し番号でついていたらその席は探しにくいのではないかと思うわけです。あなたの席は37220番です、って言われても途方にくれてしまうと思われるのですが、外野のGの236です、って言われると探しやすい。まずGのゲートを探してから席を探すはずです。出版社別陳列は、一つ一つが小さな塊を形成しているので、その塊自体が「外野のG」みたいな役割をはたしているのではないかと、私は思うわけです。著者別陳列にした際にお客様によく「この店の並び方は探しにくい」と言われるのは、多分著者別陳列だと、37220番です、みたいな棚割りになってしまいがちだからではないかと推測しています。
さて、こう比較すると、出版社別陳列のこれまで見えてこなかった利点が見えてきました。利点もたくさんあることだし、単純に出版社別陳列を悪者扱いするのは、ちょと可哀相ですね。次回は著者別陳列について、その長所と欠点を考察してみることにします。