⑤結局のところ、正しい陳列って、どうなんですか?

さて最終回の今日は、おいしいトコ取りのできる陳列方法を考えてみるということでしたね。つまりこういうことです。探しやすく、長大な棚にならず、同じ作家の作品もバラバラにならず、提案も出来て、不良在庫もたまりにくく、オペレーション負担も少なくてスピードが速い、という陳列方法です。

私は意外な場所でヒントを発見しました。それは書店ではなく、ビデオレンタル店のツタヤ。実はこのツタヤの陳列方法が結構この理想の陳列法を考える上で興味深いのですよ。
ツタヤでは、通常「NEW」(新刊ですね)と「まだまだ話題作」(これは本屋にはあまりありませんが準新刊という切り口)という、商品の鮮度で区分された売場がありますが、それ以外の旧作については、ジャンル別に並べられています。洋画アクションだの、ホラーだの、ラブストーリーだのという分類ですね。早い話コンテンツ分けをしているわけです。では80年代を象徴する名作「トップガン」を探そうとするとき、あなたはどこの棚を探すでしょうか?
「えーと、戦争モノ?いや、そんな深刻な話じゃないし、ラブストーリー?っていうほどラブでもないし、アクション、サスペンス、どっちも違うしホラーじゃないし、まぁ青春ドラマなんだよなー、そんな棚あったっけ?」と探すの方もいらっしゃるでしょう。でも普通の人はこう探します。「トム・クルーズが出てるからトム・クルーズの棚を探したらいいんじゃない?」
そう、ツタヤでは著名な俳優や監督の作品は、ジャンル別分類とはまた別に、ピックアップされて俳優別監督別の棚に分類されているわけですね。そこらへんの名前も知らないような俳優や監督の作品は、普通にジャンル別に並べられているのですが、スピルバーグとかデニーロのようなビッグネームになると監督別や俳優別陳列に「昇格」するわけです。逆もありうるでしょう。昔人気だったけど今はねぇ…というシガニー・ウィーバーの出演作などは、ただのジャンル別に「降格」しています。
これですよ、これ。何かに近いと思いませんか?
簡単なことでした。このビデオの陳列をそのまま文庫の世界に持ち込めばよかったのです。ツタヤでいう基本陳列はジャンル別陳列ですが、これまで見てきたとおり、文庫は出版社別陳列の方がメリットが多いので、基本陳列は出版社別陳列でよいでしょう。そして現在のビッグネームだけ、著者別陳列に昇格させます。たとえば江國香織宮部みゆき村上春樹といった人たちです。50〜100名ぐらいチョイスすればよいのではないでしょうか。
ただし、こうすると出版社別と著者別陳列が並列することになってしまいます。もちろん、両方あるというのが理想ではありますが、限りあるスペースを有効に使用しようとすると重複は避けなければなりません。その場合、著者別棚を優先して出版社別のほうには置かないという選択をすることになります。例えば、著者別「村上春樹」の棚には「ノルウェイの森」も「海辺のカフカ」もありますが、講談社文庫や新潮文庫の棚には村上春樹の著作が並ばないということなのです。
そんなことしたら出版社別で探しにきたお客様に不便じゃないかー、と思われるあなた。ツタヤの売場を思い出してください。こういうPOPをよくみかけるはずです。
『「マイノリティ・レポート」は「宇宙戦争」コーナーに移動しました』
これを応用すればよいのです。新潮社のま行の棚に「村上春樹作品はピックアップ作家の棚に全社分取り揃えています」という仕切板を入れるだけ。どうでしょう?
確かにこの方法だと、探しやすく、長大な棚にならず、同じ作家の作品もバラバラにならず、提案も出来て不良在庫もたまりにくく、オペレーション負担も少なくてスピードが速い。いいじゃないですか。名づけて「折衷法」。そうです、正しい陳列方法とはこの「折衷法」だったのです!こんな簡単なコトだったのですね。ビデオレンタルで出来ていてなんで書店でできてなかったんだろう・・・。というわけで私の担当した店は、5年前からこの折衷法を取り入れるようになりました。最初に作った店はこれがバッチリ大成功。今では文庫売上№1の店に成長しました。おお素晴らしい。これからは折衷法の時代だ!
と言い切りたいところなのですが、まぁちょっと待て。どうもこの方法も「正解」ではないようなのですね。2年前、新しく作った店にこの陳列を入れたのですが、そこは文庫売上が不振。普通の出版社陳列になってしまった今も文庫売上不振は変わりません。どうやらこの折衷法、売れ筋が明確でない状態であったり、均等に客層がばらける店には、効果が無いようなのですね。立地や客層などの環境条件によって効果が大きく左右されるわけですから、これは「正しい」とは言いがたい。
そこで私が導き出した結論は、こうです。
「出版社別陳列にせよ、著者別陳列にせよ、折衷法にせよ、長所短所が存在している。店舗の立地客層には特性があり、それぞれの環境条件に応じた長所を最大限発揮できる陳列法が一番「ベター」である。」
まぁ、そんな訳で最近の私は陳列法については「これにしろ」というような強制はしないことにしました。オペレーションを統一すべきチェーン店の人間がこんなことを言っていたら懲罰モノなのかもしれませんが、実体のないチェーンのブランドイメージよりも一番現場に合うものを選択すればそれがいいのさ、なんて嘯いております。
ま、その現場を構成する環境因子の分析は今後も続けていこうとは考えてはいるんですけどね。例えば、店舗規模・客数・棚段数・男女比率・ターミナル立地かロードサイド立地かとか、そういった環境条件の変化においてモデルみたいなのは作れるんじゃないかと考えてはいるんです。まー、でもそれを分析している時間がありません。誰かそういう分析してる人がいたら私に解答を教えてください。そして全国に広めましょう。

さてさてこの連載も長期にわたってしまいました。ご期待されていた方には肩透かしで申し訳なかったですが、「絶対的に正しい」文庫陳列法ってのは無いんじゃないかと思っています。要はTPOにあわせて変わるはずですよ、というありきたりな結論になってしまいましたね。「折衷法」は割と使えると思いますが、万能ではないことを自ら証明してしまいました。世の中には優秀な方もたくさんいらっしゃるので、私の今回のレポートにも色々とご意見をいただきたく思います。全部読んでくださった皆さんありがとうございました。
文庫の陳列に関する考察はこのへんで終わりにして、また溜まっている読書や本屋ミシュランでもやりましょうか。ではでは。