宮脇書店カルチャースペース
日本最大の書店といえば、2001坪ある池袋のジュンク堂が有名ですが、そのジュンク堂が増床して今の規模になるまでは日本最大の坪数を誇ったのがこの宮脇カルチャースペース(CS)です。坪数は2000坪の巨大書店ですが、一般にはあまり知られていません。というのも、この宮脇CS、書店員のための書店というちょと特殊な本屋さんだったからなのですね。それだけに書店員の私にとっては、一度は行ってみたかった聖地の一つ。ようやく巡礼の願いがかないました。書店員のための書店というのは、この宮脇CSは宮脇書店のために作られたチェーン全体の客注倉庫の役割を果たしているからです。ま、一般のお客様も入場できるようなので、行ってみる事にしましょう。
犬も歩けばうどん屋か宮脇書店にあたる、と言われる高松の港の工場街に宮脇CSはひっそりと建っていました。出歩く人もおらず、走っているのはトラックばかりという、商業不毛の地にあるので訪れる人も稀なのでしょう。一応看板は出ていますが、通りがかっただけでは普通ここが本屋だとは認識できません。でも別にいいのです。お客様なんか来なくても。
正面玄関から入ると、まず土足厳禁でスリッパに履き替えます。私以外にも先客がいるようで、20足ぐらい靴が並んでました。ということは人口密度は100坪につき1名ぐらい。孤独を味わえる書店です。スリッパに履き替えると受付があって、お姉さんに手荷物を渡さなければなりません。ここはまんだらけのように手荷物持込禁止なのです。
さあいよいよ売場です。まずは1階。入って右手には新刊コーナーがあります。雑誌とここ数ヶ月に出たすべての新刊がぎっしりつまった棚が並んでいます。店売っぽい雰囲気ですね。ただしコミックはケロロ軍曹やエウレカセブンしかなかったので雑誌扱い分は配本を止めてるみたいですね。正面には在庫検索機があります。よく見ると棚のあちこちに、「すべての本を位置登録しているので、立ち読みした本は必ず元の場所に戻してください」という注意書きが。注文が多い書店ですね。
さて左手には広大な書棚の海が広がっています。1階は主に、文庫や文芸書が並べられています。すごいのは、全部出版社別陳列であるということ。文庫以外は探しにくさ炸裂!です。出版社で固まっているだけで、ジャンルも著者も考慮されていない陳列。しかも平台にまで本を差して並べています。
壁面側に目を向けましょう。ここはすごいです。大手の出版社一社一社にロゴマーク入りの展示ブースが与えられ、コミケにおける大手サークル並の特別待遇をうけています。でもあんまりメンテナンスされてないみたいようで、ほとんどのブースの在庫はスカスカ。なんとなくどよーんとした空気で澱んでいます。雰囲気に耐え切れず2階に行くことにしました。
2階にきました。うわ何だこれは!何と2階には神社が建っています。えー「朝日神社」と書いていますね。鳥居も参道も社殿もある立派な神社です。私もいろいろ書店を見てきましたが、神社が建っている書店に来たのは初めてです。多分最後になる気もします。
2階にはまだまだ楽しいスペースがあります。まずは休憩室。和室で100畳もあります。こんな立派なのに誰も休憩していないのが残念でなりません。さらには宮脇ギャラリー。ここは全国各地に存在する宮脇書店の外観写真パネルが、店名とOPEN日つきで飾られています。これらを眺めていて気づいたのですが、宮脇書店の看板って二種類あるんですね。「本なら何でも揃う 宮脇書店」というやつと「本なら何んでも揃う 宮脇書店」というやつです。なぜ「何でも」と「何んでも」が並列で存在することになってしまったのか法則性を探ってみましたが、結局意味不明でした。何かの暗号なのでしょうか?どなたかご存知の方はご教示願います。ちなみにこの宮脇CSは「何んでも」派です。それはそうと「何んでも」って日本語としておかしくないですか?2階は実用書や児童書、人文書のフロアですが、なんかそのへんはどうでもいい気がしてきました。
3階に来ました。3階まで来ると、客は私一人です。店員さんも真ん中のカウンターに1名のみ。600坪の売場に2名しかいません。やや寒気のする状況ですが、この3階はエアコンが消されていて異常に暑かったため、その辺の感覚が麻痺しそうです。わざとなんでしょうか。この3階は、全国各地の郷土本を置くという壮大な構想で編成されたようなのですが、もはや廃墟に近い状況です。各県のイメージ写真の電飾看板のみが煌々と明るく、実際の棚にはほとんど何も置かれていないという売場が延々と600坪も続きます。つ、つらい。
いやいや、これはちょとカルチャーショックを受ける店です。宮脇CSってカルチャーショックの略じゃないのか、と疑いたくなります。この店の陳列では、残念ながら愛すべき本たちは死んでいました。とにかくどんなに広くて在庫タイトルがあっても、墓場では本は買えません。書店としては失格だと言えます。しかしここは、桂小枝的なパラダイスとも言えます。ある意味、異世界探検ができたわけですから来てよかったと心底思いました。おみくじ収集家の私としては朝日神社におみくじが売っていなかったことだけが残念です。総合評価40点。
ところで宮脇書店の本社が向かいにあるんですが、その社長室には掘りごたつがあって蜜柑が乗っかっているらしいと聞きました。ああパラダイス。機会があったら見てみたいものです。