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オタク市場の研究

オタク市場の研究

私がオタク業界の研究をはじめたのは今から15年ぐらい前の話ですが、ついに野村総研からこのような研究レポートが出る時代になりました。当時は「これから一億総オタク化の時代が来る」と言っても誰も信じてくれませんでしたから感慨深いですね。
さて、様々なオタク研究書を読んで来た私から見ても、本書はこれまでの研究書からみるとかなり異色の存在です。このレポートの定義づける「オタク」とは、「趣味に膨大なお金と時間を費やす人」のことで、文化的社会的現象面から規定されたこれまでのオタク像よりもかなり広いエリアを対象にしています。コミックやアニメ、ゲームというコンテンツ系だけでなく、メカ系や旅系なども含まれており、「DCブランドオタク」「リゾート旅行オタク」「車のドレスアップオタク」など、従来の感覚でのオタクとは対極の位置にある人たちも「オタク」に分類されています。多分このへんの定義には反発する人もいることでしょう。
本書が優れているのは、そうした人たちへのマーケティング手法について、非常に明快な自説を展開していることです。一般的なマーケティングフレームとしては「マーケティングの4P」(Product/Price/Promotion/Place)がよく知られていますが、このフレームがオタク市場に関しては全く通用しないことを企業はまず認識すべきだ、というところから始まります。そしてオタクについては、「オタク市場の3C」を適用すべきだと提案します。
3Cとは、「Collection(収集)」「Creativity(創造性)」「Comunity(コミュニティ)」のこと。これがすべてのオタク市場に見られる共通のフレームであり、これをうまく活用して市場戦略をたてるべきである、というわけ。なるほど。さらに補助フレームとして「イベント」「聖地」「伝説」が共通して存在するという指摘。例えば、ゲームなら「ゲーム大会」「巣鴨キャロットハウス」「高橋名人」みたいな感じらしい。非常に興味深い。つまりオタク市場で成功するためには、これらのキーワードを外すわけにはいかないということです。書店の例で考えると、「サイン会」「トークショー」などのイベントを実施し、池袋のジュンク堂のような存在になり、カリスマ書店員がいる、みたいな感じか?今泉さんがいた頃の池袋のリブロがいまだに語り草になるのは、そうした条件が多分満たされていたからなんでしょうね。なかなか優れた分析レポートです。
マーケティング理論以外の各分野のオタクのプロファイリングは、内容は深くないものの、簡潔にまとまっています。中にはとても役立つコラムもあり、旅行書担当の人などは、この旅行オタクの分析レポートなど必読なのではないでしょうか。棚の作り方が多分根本的にかわると思います。自分の未知の分野のオタク情報は、かなり勉強になりました。
全体的に良書だと思いますが、文化論的考察としてはやや弱いのが残念です。例えばオタクは競馬にはまる人は多いのに、競輪や競艇にはまる人がいないのはなぜなのか、といった疑問に本書は答えてくれません。ただ、ビジネスユースとしては、非常に有意義なものでした。評価A−
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0510/06/news068.html