希望の書店論

希望の書店論

カリスマ書店員というよりも「書店人」という表現が似合う福嶋さんの新刊。私も敬意を表して(?)ちゃんとジュンク堂で購入しました。大阪本店ではありませんが。
内容はとても充実していて、特に第1章「本屋とコンピュータ」で展開されている論は非常にすばらしいものがあります。特に書籍のデータベースに営業的な視座を確保して「履歴項目」(書評記録、マスコミ紹介記録、受賞記録、その他のエピソード)を充実させるべきであるという意見には大賛成。すでに半分ぐらいは実現されてきてますが、まだまだ充分使えるレベルにはなっていませんので今後もこの方向性にデータベースが進化していってほしいものです。また、電子タグの具体的な構想についてもとても平易にわかりやすく書かれていて、経済産業省の長くてつまらないレポートを読むよりは余程ためになります。第二章の図書館論も面白く読めました。第四章の「書店という現場」において、SA化以後の書店では「統制ではなく創発を」という発想が重要になるという指摘も全くそのとおりだと思いました。時には私の意見や書店論と全く正反対のことをおっしゃっている箇所もあるのですが、なかなかいろいろと考えさせてくれる本で、とてもいい本でした。
ところでジュンク堂書店と言えば、前々からアマゾンに酷似したWeb2.0的な書店だなと私は感じていたのですが、当のジュンク堂の方はどれだけその事に自覚的なのだろうかと疑問に思っていました。その答えもこの本の36ページ目に書かれています。

本という商品について「ロングテール」論が成立するのは、ネット書店だけではないと反論しておこう。ジュンク堂書店は、決して「恐竜の首」派ではない。随分前から、ひょっとしたら発祥の頃から「ロングテール」派だったと言える。できるだけ多くの点数を揃えて、一人でもその商品を必要としているお客様を待つ、というのが社是であり、戦略だったからだ。そのために、敢えて言えばそのためだけに、池袋本店は日本最大の二〇〇〇坪の書店となった。「ロングテール」を実現するためである。ジュンク堂書店はアマゾン・コムと理念を共有しているのである。

この本で何が重要かって、やはりこの一節だと思います。ちゃんとジュンク堂内部の方もそのことをわかってやってるから、今の時代においてジュンク堂書店は強いのであり、ここにジュンク堂の本質と福嶋氏の「希望」が凝縮されていると思うのです。
ただ、個人的にはこのジュンク堂の方向性は否定はしないものの、好きではありません。もし誰かに、お金のことは心配しなくてもいいから、あなたの好きなように本屋さんを作っていいよーと言われても、私は多分ジュンク堂のような店は作らないと思います。それは話し出したらまた長くなりそうなので別の機会に触れることにしましょう。
評価B+