コミックにシュリンクをしないとどうなるか?(その3)

ではここらへんで実際のDATAを確認してみることにしましょう。今回は2店舗の売上DATAをサンプルとしてみていただくことにします。季節指数による影響を除くため、コミックの全国平均売上を100としたときの売上推移グラフを作成してみました。赤いラインが平均値です。
まずはX店のDATAを見てください。これはX店の2006年から2007年にかけてのコミックの売上推移DATAです。
X店
このX店は、コミックのシュリンクをしばらくしていなかったのですが、2006年の8月からシュリンクをするようになりました。
その結果、シュリンク無しの時点の売上指数平均は、大体130あたりを横ばいで変化しなかったのですが、シュリンクを開始したあたりから急激に売上が上昇していることがわかります。わずか1年で売上が150%になっています。ちょっと極端な例ですね。普通はここまで変化することはないでしょうが、シュリンクしたら売上があがったという貴重なサンプルだと思われます。
次に見ていただきたいのはY店のグラフです。2007年5月〜11月にかけての数字です。
Y店
この店はもともと、シュリンクをしていた店だったのですが、8月からシュリンクをやめるということをおこなった店です。もともとの指数平均は210あたり。ただし売上が下降傾向にあったので、「シュリンクをはずすことによって新規顧客を獲得し、売上をあげる」というチャレンジをおこなったのでした。しかし結果は見てのとおりです。売上はシュリンクをはずした途端、指数平均185まで低下。12%ほど売上を落とすという結果になってしまいました。
つまり、21世紀のコミックシュリンク問題についての結論はこうなります。

コミックにシュリンクをしないと、売上は下がります!!

理由はいろいろ考えられるのですが、前回の客層区分で説明をすると、A層の相対的な増加というのが、最大の要因であるように思えます。
ABCのトータル数は、実は大きな変化はありません。ここ何年か書店で販売されているコミックの売上は、上がってはいないものの落ちこんでいるわけでもないからです。コミック読者人口ということで言えば、むしろ増加しているでしょう。書店というチャンネル以外で、コミックを読んだり買ったりするできる機会が21世紀にはいって大幅に増えました。マンガ喫茶でも読めるし、レンタルも出来るし、ブックオフに代表される新古書店でも読めるし買えます。書店からネット書店に乗り換えてしまった人も少なからずおります。これらの書店以外のチャンネルを使用する層を仮にDとします。ABCからDにかなり多数が流出しているにもかかわらず、ABCのトータル数が変わらないということは、ABCの中に新規に流入した人たちがおり、Dに流出した分を補っているのということになります。
実はこの人たちのA率がとても高いのではないかというのが私の仮説です。あらたにABCに流入してきた客層は、Dという選択肢があるにもかかわらず、わざわざ書店に来ている層です。新しく流入したこの客層はこう考えているのではないでしょうか。立ち読みしたければ新古書店に行けばよい。面白いかどうかは、アニメ化ドラマ化作品を見たり、ネットの評判や「この○○がスゴイ」系のガイド本で判断すればよい。確実にきれいな本を買おうと思ったら、上から3冊目を自分で手に取れる書店しかない。しかもコミックにシュリンクをしているのは、実は書店だけなのです。
流通チャンネルの選択肢が増えるにつれ、コミック読者も進化してきました。昔は読むのも買うのも情報をとるのもすべて書店であった時代がありました。しかし、それぞれのお客さんの使い分けが進んだ結果、書店に来る人は「買う」に特化した人が増えてきたのです。A層が増え、B層C層が減ったら、結果は明らかです。書店でシュリンクをやめたら売上が下がるようになってしまいます。
これを象徴しているのではないかと思う写真をご紹介しましょう。この店は、同じ屋根の下に本の中古売場と新刊書の売場が通路ひとつ隔てて隣接しているというユニークな店舗です。
まずは新刊書のほうの売場。

この店の新刊コミックおよびライトノベルはすべてシュリンクがかかっていました。売場には誰もいません。
次に中古本の売場です。こちらは立ち読みの方でいっぱいです。

これじゃ新刊のほうは売れないでしょう?と考えるのは間違いです。どっちも売れるのです。要は使い分けというスタイルが進化したということなんだと思います。書店に期待されている役割が、コミックに関しては10年前と違ってきてしまったということではないでしょうか。
長々と書いてきましたが、このエントリはこれでおしまいです。じゃあ新刊書店での理想的な陳列方法はどうすればいいんだ?という疑問もあろうかと思いますが、まあそれは、また別途機会があれば書くことにして、ここで今回は筆をおくことにしましょう。長々と読んでいただき、ありがとうございました。