のぼうの城

のぼうの城

あちこちで絶賛されているのでいまさらという気もしますが、個人的にはこの本こそ次の直木賞、と思ってしまったぐらい、久々に「完璧な小説」を読んだという印象が強かったので紹介させていただきます。噂にたがわない傑作です。
秀吉の小田原城包囲戦のときに北条氏の一支城である忍城の攻防戦を書いたもの。石田三成がこの城の水攻めに失敗して、武将としての天下の評判が失墜するという史実自体はよく知られていますが、篭城側である成田長親(本作の主人公)については、ほとんど知られていないのではないでしょうか。
信長の野望の雑魚武将としてすら登場しないぐらいマイナーな武将であり、武勇も知略も政治力もない、というキャラクターである成田長親がどのようにして石田三成大谷吉継らの大軍を退けたのか、その人間像がやたらに面白く、その将器の大きさについて、読者の誰しもが納得する力量をもった話なのであります。映画化の話もでているようですが、「隠し砦の三悪人」を撮った頃の黒澤明がこれを撮ったら確実に歴史に残る傑作になっただろうと容易に推測できるほど、完璧なキャラクター造詣に完璧な背景描写に完璧なストーリー展開です。
とか言ってここまで絶賛すると、うそつけ普通の小説だろ、と怒るかたもいらっしゃいますのでこのへんにしておきます。個人的にエンタテイメントとして一流、なタイトルは、あんまり内容が深くなくても評価高くなりますねー。評価A