書店員の恋

書店員の恋

あらすじ

主人公は、大手書店チェーンに勤める今井翔子(26)。入社6年目にして文芸コーナーを任せられた、書店員の仕事が大好きな女性。ファミレスの厨房で働く同い年の水田大輔という恋人がいる。彼は翔子のことを真剣に考えているが、今は、心の余裕もお金も将来の展望もない。そこに現れるのが、ケイタイ小説のベストセラー作家で歯科医師の青木譲二(35)。サイン会の打ち上げをきっかけに、翔子に好意を抱きはじめる。予期せぬ譲二とのキス。高級レストランでの食事。そして海外旅行に誘われ、揺れ動く翔子。お金持ちの譲二か、先が見えない大輔か。大輔との恋愛に暗雲が漂うが、大輔について行こうと決断しかける翔子。しかし、翔子との恋をあきらめ、料理修業のためフランスへ旅立つ大輔。書店員であることの喜び、生き甲斐、悩み、そして、最後に翔子に待っていた愛とは? お金がなくては生きていけない? でも、お金では幸せになれない?

あの「エンキョリレンアイ」を彷彿させる、書店員主人公の恋愛小説が出ると聞いて、久々にありえない設定シリーズの爆笑恋愛小説かと思い、読んでみたんですが、なんだかですね、結構真面目なお話でして、ある意味期待を裏切られました。
簡単に話をまとめちゃうと、成功して金持ちで頭も切れる独身ミドルと、貧乏でアホだけれども夢を追っている若い彼氏の間を揺れる乙女心、っていう、大昔からある黄金パターンの恋愛小説。主人公は書店員であってもなくても話は成立するので、おまけ程度の設定なんですが、書店員をやっていても全然お金がたまらないとか、妙なところでリアル。書店員って今やお金がたまらない職業の代名詞になっちゃってるんですね。あなた、えらいわね、本屋さんの仕事はけっこう重労働でしょう?それで、お給料だって、たいしてよくないんでしょう?大変ねえ、早くお嫁にいけるといいわねえ、とお客さんに言われる主人公…、これはかなり切ない。
でも著者が本当に言いたかったことは、「愛か金か」というテーマなのではなく、男性の理想の条件について願望を口にする、今の女性に対する戒めのほうにあるようです。196ページで、人生の先輩である40代の出版社の女性営業担当者は主人公にこう語ります。

「当時、三高の男性を求めていた女性たちは、今の玉の輿ねらいとぜんぜん違うのよ」
「何がいちばん違うかっていうと…女性たちのほうにも向上心があったということかな」
「自分自身、もっといい仕事をしたい、もっといい女になりたい、もっといい生活がしたい。みんな強く願っていたの。その結果として、そんな自分に似合ういい男とつきあいたい、その願望が三高だったわけ!」
「でも、今の女性たちは自分自身を本気で向上させようなんて思ってない。見てくれや上辺をつくろって、とにかく金持ちの男をつかまえて、それにぶらさがって、自分はラクして生きていこうとしてるだけ」
「だから、むなしいの。さもしいの。品がないの。だから嘆かわしいのよ、今の若い女の子たち見てると」

爆笑恋愛小説どころか、むしろ鬱系自己啓発小説?
「世の中ね、顔かお金かなのよ」という回文を思わず思い出してしまった私なのでした。評価B