本屋大賞読書週間

出星前夜

出星前夜

島原の乱を扱った歴史小説。完成度は高く、読み応えはあった。最後、ちょっとじわっとくるものはあるのだが、そこまでだった。ストーリー構成はうまいし、無駄はないし、テーマもよいし、中だるみしないし、見事な小説としかいいようがないのではあるが、でも面白みに欠けたのは残念。
飯嶋和一は、文章が硬質で重厚であり、かつ感情を排して淡々と語るものだから、何だか歴史書を紐解いているような気分になるのだ。登場人物たちも物語の中で躍動しているという感じではなく、役者が歴史上の時間軸に配置されて、あたかも「史実」という物語を演じているだけであるような印象を受けてしまうのだ。
同じ歴史小説である「テンペスト」のキャラクター萌えに頼った物語世界観とは、まるで正反対。本作ではキャラクターの魅力が必要以上に押さえ込まれ、物語の構造のみに力点が集約されてしまっているように思える。物語の構造のみで読者の感情を揺り動かすのは、結構至難の業で、どんなにストーリーが完璧でも、理屈や概念でない何かが足りないと、純粋には感動できなくなってしまうので、折角の話が最大限生かされない。
この小説に欠点があるとしたら、そこではないだろうか。「このような過去があり、このように生きた人物がいた」という事を語ることは歴史であるが、小説はそれに加えて著者のメッセージが必要になる。「このような過去があり、このように生きた人物がいた」それ以上の何を飯嶋和一は伝えたかったのだろう。伝えたかったことそれすらも、感情を排した淡々とした文章に隠され、読者の想像力にゆだねられてしまった。こういうラストは苦手である。
評価B+