本の現場

永江さんの新刊。衰退が叫ばれて久しい出版業界ですが、現場では今何が起こっているのか、統計データも明示しながら、現在進行形で出版業界の諸問題を切り取ってサマリーしてくれている好著です。この本を読んだら、出版業界に詳しくない外部の方でも、今出版業界でどんなことが問題になっているのか、何が原因なのか、どうしたらその問題は解決するのか、多少なりとも理解できるに違いありません。書店員の方でも、まだキャリア2年目です、ぐらいの方であれば、かなり勉強になると思います。
トピックスは、「新刊洪水」現象の本質、自費出版の現状、「朝の読書」と「読書マラソン」運動について、「読書離れ」は本当におこっているのかの検証、新書ブームがもたらしたもの、書店のディレクションについて、などなど。
この本は永江さんがこれらについて、あちらこちらで書かれたものを再編集したものなので、ところどころ既読のものもあったりしますが、各章に必ず付記が追加されていて、そのトピックスについての最新情報も記されているので、かなり読み応えがありました。巻末にはBACHの幅さんへのインタビューや、ポット出版の沢辺さんとの対談もあってこれも面白かったです。これは買いだと思います。

昔から永江さんの本はずっと読んでるんですけど、今までで一番内容には共感できたんじゃないかな、と思います。永江さんは、ヴィレヴァンとかABCとかいわゆるセレクト型の特殊な書店が大好きな方で、普通の書店は結構軽視してる印象があったんですが、ここ2〜3年で普通の書店に対する視線が随分と変わってきたような気がします。まあ、セレクト型個性派書店を持ち上げているだけでは、実は業界全体は何にも変わらないという冷徹な事実があり、むしろ普通の書店で革新的なことを成し遂げていくことにこそ、未来への可能性が広がっているということに、ようやく目を向け始めてくれたのかもしれませんが、相変わらず「ベストセラーが嫌い」とか「メジャーなものは嫌い」とも書いてあるので、気のせいかもしれませんけどね。
さて、この本は珍しく「非再販」なのであります。ニュースにもなってましたね。
http://book.asahi.com/news/TKY200907080177.html
「非再販」になった経緯は、ポット出版の沢辺さんとの対談で明かされており、その対談で決定したとおり、この本には「非再販」と大きく書かれているんですが、これを希望小売価格じゃない価格で販売する書店なんかあるんかなぁ? ちょっと疑問。
どこの書店でも大体POSレジでバーコード読ませたら、自動的にシステムでそのバーコードの表示価格で販売する設定になっているわけなので、せめてバーコードの価格表示を無しにするとかにしないと、ほとんどの店は非再販とか、まったく気づかずにそのまま販売してしまうと思います。そもそも定価じゃない価格で売る必然性も無いし。ということで、そこらへんはもう少し工夫がほしかったかも。