西尾維新とブックオフ

難民探偵 (100周年書き下ろし)

難民探偵 (100周年書き下ろし)

今日は、芥川賞直木賞をネタにして何か書こうと思っていたのですが、個人的に全くテンションがあがらない結果に終わってしまいましたので、こないだ読んだ西尾維新の新作について書くことにします。
戯言シリーズ」「化物語」シリーズの大ヒットも記憶に新しい、西尾維新の久々の「推理小説」ということで、読んでみました。ストーリーは、東京の大手出版社の役員が、なぜか京都にあるネットカフェで死体となって発見されるという至極まっとうなミステリ小説でして、吸血鬼の体を持った主人公が美少女たちとヲタトークを繰り広げながら、通り名を騙る人外たちと超能力バトルを戦ったりするような展開は一切ございませんのでご注意ください。
ラノベフォーマットを封印してしまった西尾維新のこの小説が、じゃあミステリ小説として面白いのか、と問われると、まあ普通、でもどちらかと言うと出来はよくないほう、と答えざるをえませんが、個人的には全然ストーリーと関係のない箇所がツボだったので、そこをちょこっとご紹介しようかと思います。この小説では、西尾維新が登場人物である作家に、中古書店をどう思っているか、今の出版界や作家という職業をどうとらえているかを語らせるシーンがあるんですが、それがちょっと書店員的には面白いんですよ。ちょっと一部分を引用してみますね。

「確かに、稼ぎが安定してからは利用しなくなりました。それは著作権的な問題でしてね。いくら合法であろうと、印税率で飯を食ってる身分としては、ネットカフェやら図書館やら、古本屋やらの使用には酷い背徳感を覚えるわけでして」
「ああ、なるほど」
「立ち読みさえも緊張しますよ。作家になって受けた一番のダメージは、やっぱりブックオフを始めとする古書店を利用できなくなったことです。絶版本が入手できない苦痛は筆舌に尽くしがたい」
「金持ちになればなるほど、庶民的だねえ」
「CDやDVDのレンタルも、グレーゾーンですね。あと、ヤフオクやリサイクル用品も、気分的にはつながっちゃいます」
「エコじゃねえ野郎だなあ。ヤフオクとか、お前ネット環境整ってねえじゃねえかよ。いいじゃねえか。ブックオフぐらい利用したら。作家ってのは、より多くの人に読んでもらえることを喜ぶもんだろ?それこそブックオフのコピーだっけ?捨てられた本をバックに、『もう少しの間だけ、本でいさせてあげてください』って。あれ見たとき俺は泣いたねえ」
ブックオフのコピーは、確かにいちいち素晴らしいですね。恐らくバックにプロがいます」

「だから作り手としての俺は自分の本がネットカフェに置かれていようが古本屋で売られていようが、実はそれほど構わないんですがね。出版社はダメージでしょうが……白状すれば、東京のブックオフには俺の筆名の棚差しがあると聞いたときには、少なからず嬉しかったものですし。俺も本が売られるほどの身分になったか、なんてね。ただ、読み手、受けてとしての俺は、ちゃんとクリエイターを買い支えなければなあと思うわけですよ。業界に対するお返しと言いますか……まあ、ええ、生産者還元ですよ」

あともう一箇所、この本には書店員的に非常に興味深いやりとりが掲載されているのですが、それは読んだ方だけのお楽しみということで、今日はここまで。ではでは。