考えない人

考えない人

考えない人

宮沢章夫の独特のあのちょっと外した言い回しがたまらない。と書けば分かる人にはわかっていただけるだろうか。
宮沢章夫の文章を読んでいると、必ず時間が止まる瞬間がある。そしてその一瞬の溜めの後にこみあげられる爆発的な笑いは、なかなか他の人の文章では味わえない感覚だ。職人芸と言っていいと思う。
笑いのネタ自体は日常の中の些細なことなのだが、それを観察し、違和感にすかさずツッコミをいれ、笑いを見出す才能は、ちょっとモノが違う感じがする。ボケとツッコミで言うと、基本的にはツッコミであるのだが、つっこんでつっこんでつっこんでからボケるというスタイルなので、最後のボケの破壊力がすごい。ノリツッコミとは逆のことをしているから、このスタイルはノリボケとでも言うべきなのだろうか。
タイトルこそ「考えない人」だが、この文章のスタイルは、結構考えて生み出されているのだという話が、終わりのほうに出てくる。宮沢章夫がエッセイを書き始めた頃流行していた文体は、「昭和軽薄体」だったが、それだけは書くまいと努力して結果的に今のスタイルが生み出されたのだそうだ。
ところで今回はいつものコネタだけではなく、野球のルールを知らない人が初めて野球を観に行った話と、手術を受けた話、池山の引退試合が大ネタで読める。それが大ネタか?と言われると苦しいけど、これがまた面白いのだ。新刊を楽しみにして待っていた甲斐があったというものである。
何も考えずに笑っていられるんだから。