青春ぐんぐん書店

青春ぐんぐん書店 (新潮文庫)

青春ぐんぐん書店 (新潮文庫)

つい最近までどういうわけかこの本の存在を知らず、あわてて読みました。主人公の拓也の父親は酒田にある至山堂書店4店舗の経営者。その書店が昭和51年の酒田の大火で焼失したところからこの話は始まります。
酒田には行ったことはないのだけれども、書き出しがすばらしくて思わず行ってみたくなります。

北国ではあるが、庄内酒田は雪はけっして多くない。初雪は例年十一月頃と遅いし、降っても内陸部の山形地方のように、雪で埋もれるということはない。
酒田の冬はむしろ風である。秋の終わり、日本列島が西高東低の気圧配置におおわれる頃になると、季節風はまず酒田に襲いかかる。日本海に面してさえぎるものがないから、容赦のない強さである。昭和五十一年の十月二十九日もそんな日だった。横殴りの西風に、昼すぎからは雨もまじって、拓也は自転車で帰るのをよそうかと思ったくらいだ。

佐高信さんの解説に、至山堂書店のモデルは青山堂書店だとありますが、青山堂自体は2008年に倒産してしまってもう無いらしいので酒田に行っても訪ねることはできない模様。残念です。
ところで、この作品にはもう一つ書店が登場します。主人公拓也が東京で住み込みの店員として働くことになる「現代書店」。経堂駅前の商店街右側にあり、商店街にしては大きな書店という記述があるので、これは多分、今はなくなってしまったキリン堂書店のことではないでしょうか。
ということで、キリン堂にかつていらっしゃった方に、この本のこと知ってました?と聞いてみましたが、いや知らなかったとのこと。
「でもねじめ正一さんは、よくお店にいらしてましたよ。店とは別の場所に倉庫みたいなところがあって、そこで住み込みで働いていた人もいましたので、そのことを書かれてたんでしょうかね」
「へー!そうなんですか。じゃあきっとそれですよ」
「そう言えば、あの店ではこんなことがありました。万引犯がトイレの窓から逃げようとしたので追いかけたんです。トイレの窓から屋根にのぼってね、屋根から屋根に飛び移って万引き犯が逃げていくわけですよ。商店街だからずっと屋根がつながってるんですね。私も屋根を飛び移りながら追っかけていったわけです」
「すごい、まるでマンガみたいですね!でも屋根が続いてるのもいつかは途切れるでしょう?どうなったんですか?」
「屋根が終わりになったところでハイ御用となりました。いやあのときは商店街が大騒ぎになりましたよ」
で、そのエピソードはその小説に出てます?と聞かれましたが、そんな面白すぎる話はこの小説には登場しません。