本屋がなくなったら、本当に困るのだろうか?
本屋がなくなったら、困るじゃないか: 11時間ぐびぐび会議 (棚ブックス)
- 作者: ブックオカ
- 出版社/メーカー: 西日本新聞社
- 発売日: 2016/07/31
- メディア: 単行本
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本屋で働き始めて20年になる。
色々と思うところあって一度は現場を離れたのだが、4年ほどして、また戻ってきてしまった。
日本の出版業界は、1996年の2.6兆円の売上をピークに右肩下がりを続けている。この20年で市場規模は半分近くにまで縮小していて、今や1.5兆円。パチンコ産業の3.3兆円に及ばないのはもちろんのこと、トヨタ自動車一社の純利益2兆円にも余裕で負けている業界である。
私にしても本屋で働き始めたのがちょうど20年前だから、売上が前年を上回るという経験を一度もしたことがないということになる。客観的に見ると完全に斜陽産業なのだ。
ソフトバンクの孫社長によると、紙の媒体は30年後には消滅しているという。
「紙の新聞なんて100%ありえない」孫正義氏が描く“30年後”のメディア事情 - ログミー
この話があったのが2010年だったから、この予言が実現すると仮定すると、24年後には本屋などは確実に消えてなくなっていることになる。
はっきり言ってこの先は厳しい。というか、現時点でもすでに厳しい。
でも何の因果か、また戻ってきてしまった。
何だかんだ言って、私は本屋が好きなのであろう。
好きでもなければ、正直やってられないし、やっていけないのだ。この業界は、実はそういう人たちばかりで支えられている。
さて、冒頭に紹介した『本屋がなくなったら、困るじゃないか』というこの本は、そういう人たちが福岡に集まって、何故この業界はこうなってしまったのか、これからの本屋はどうしていけば生き残っていけるのか、喧々諤々(?)の議論を交わしている本である。
私は、「何故こうなってしまったのか」「何処を目指すのか」が明確になっていないと、「どうすれば生き残っていけるだろうか」という問いは無意味なのではないかと思っている。どんな病にかかっているのか、ろくに診断もせずにただただ延命治療をしているようなものだからだ。
出版業界の危機を語る本は、それこそ何十冊と存在するのだが、どうすればこの業界は生き残ることができるか、という点に主眼を置いた本は多いものの、何故こうなってしまったのかを掘り下げている本はなかなかなくて、そういう意味でこの本は、お馴染みのテーマを扱っているようで実は新しい。
私も、自分が働いていたこの業界はこういう構造になっていて、こういう問題があるから、ダメになっていっているんだということがわかり、非常に勉強になった。漫然と何も考えず業務に忙殺されているだけ、という意識低い系の書店員であったことを、痛く反省するばかりである。
ただ、同時に思うことがあった。
本屋がなくなったら、本当に困るのだろうか?と。
私は、本屋でなかった4年間、ほとんど本屋に行くことがなかった。
それ以前は本屋なしの生活など考えられない毎日を過ごしていたわけだから、その意識の変化には自分でもとても驚いたが、よく考えると普通の生活をしている上で、本屋にはそんなに用は無いのであった。
本は別に本屋で買わなくても読むことができるのである。そもそもそれ以前に本など読まなくても読むものはいくらでもネット上に転がっているのであった。これが一般的な人の感覚なのだ。
この20年間、本屋がなくても生活にはさしたる不便を感じないという人が、どんどん増えてきているのを肌で感じる。数でいうと、むしろそちらのほうが圧倒的多数派であることは間違いない。
私は考える。
この人たちが、自分の生活に欠かせないなと思ってくれるような本屋を、つくれないものかと。