町の本屋さんについて、一年間考えた本

本屋会議

本屋会議

『本屋図鑑』もいい本でしたが、この本もいい本ですね。夏葉社さん。
ということで、個人的にこの本がとても良かったところを、挙げていこうと思います。
この本のテーマは「町の本屋さん」についてです。ここのところ毎年こんなニュースが流れてますよね。
http://irorio.jp/nagasawamaki/20150106/193012/
こういったニュースを見て、読書離れだ、少子高齢化だ、アマゾンだ、電子書籍だ、となんだかんだ外野から言うのはとても簡単なのですが、この本では安易に結論を出すことをせず、もう少し深くこの問題を考えてみたい、とそこであえて立ち止まります。
本当に町には本屋さんが必要なのだろうか、と。
町の本屋さんの役割とは何なのか。それは勿論その地域の環境によって異なるし、その地域の住んでいる人によってあるべき書店の像も変わってしまうのですが、これまで語られてきた書店論では、そんな実は当たり前のことである、本来の顧客である地域の人々からの視点が欠落したものが多かったと指摘されています。同感です。
この本では、読書離れだ、少子高齢化だ、アマゾンだ、電子書籍だという現在の環境を考えながらも、現在も経営環境の厳しい地方で営業されているいくつかの本屋さんに実際にインタビューし、あるときはその意義を、あるときは未来を、あるときは反省を聞きながら、何が本質的で大事なことなのか、明らかにしようとしていきます。
すごいなと思ったのは、そういった中で、昔ながらの「町の本屋さん」を惜しむ気持ちの本質は、実はノスタルジーなんだということを言い切ってしまったことです。

そこからくっきり見えてきたのは、お客さんたちが持つ、さまざまな「本屋さん」の体験だ。
多くの参加者たちは「本屋さん」に一番必要なものはなんですか?」という問いにこたえる前に、幼いころに通った(またはあこがれた)本屋さんの話をした。あたかも、それ抜きでは「町の本屋さん」のことは語れないというふうに。
それらは単なるノスタルジーといってしまえば、それだけの話なのかもしれない(そもそも「本屋さん」という言葉にはそうしたものを誘発する力がある)。
けれどそれだけではないと思うのである。
つまり、本屋さんが好きな人は子どものころから本屋さんに通った(またはあこがれていた)からこそ、本屋さんが好きなのではないだろうか。
それはいい換えれば、本屋さんを必要としている人は子どものころから本屋さんを必要としていたからこそ、本屋さんが必要であるともいえる。

ぼくは「町の本屋さん」が一軒でも多く残ってほしいと願う。(中略)けれど気をつけなければいけないのは、そうした切なる願いと、本屋さんの本来的な必要性というのは、まったく別のものであるということだ。
「本屋さんが必要」な理由は、その実用的な意味というよりも、公的な意味というよりも、それぞれ個々のノスタルジーから来ているといったほうが正しいだろう。

さらに、この論考はここで終わらないのです。その上で実店舗の本屋さんが果たすべき役割について考えをめぐらしていきます。
より便利にWEBで同じものが買えてしまうこのブロードバンド時代の中にあっても、輝きを失わない恵文社一乗寺店の堀部さんにその秘訣を聞き、その一方で同じ時代環境にあって閉店することになってしまった海文堂の福岡さんの話が対比されます。
ものすごく勉強になる、と同時に何をしなくてはならないか、自然と見えてきます。
この本では空犬さんによる「本屋さんの五〇年」という町の本屋さんの歴史について書かれた章も読むことが出来ます。このノスタルジーあふれる私的本屋史もすばらしかった。学習参考書が主力だったころの町の本屋さんの様子が、写真や図面付で紹介されています。
この本はいい本ですね。夏葉社さん。