砂浜

砂浜

佐藤雅彦が、こんな小説書いてるなんて知りませんでしたよ。
読んでみましたが、佐藤雅彦的「ぼくのなつやすみ私家版」といった感じのノスタルジックな少年時代ものです。けっこう意外とよかったです。一つ一つのエピソードには、日常から大きく逸脱したようなドラマティックな展開などは全くないのですが、バスに乗り間違った、とか貝採りに潜ったとか、そんなレベルの話が淡々と語られつつも、陽光を浴びた島の少年たちの当時の生き生きとした姿が、叙情的に描かれていて、じわっときちゃいます。
佐藤雅彦は、自分のネームバリューでこの本を売ろうというのではなく、あくまで一作家として世に出したいということで、パブもゼロで出版社も紀伊国屋書店なんてマイナーなところから出しているため、この本の存在自体結構知られてないんですよね。
でも結構よかった。
「プチ哲学」とか、「日本のスイッチ」とか、本作はそういう広告代理店的な方向とは全く別の代物ですが、佐藤雅彦のルーツに誰もが共有できるこうした少年時代があったということが推し量れるだけでも、なかなか価値のある一冊です。
評価B