出版社共同で1つの文庫レーベル

ちょと面白い話を聞きました。噂によると、複数の出版社が共同で一つのレーベルの文庫を出そうという企画が進められているのだとか。通常、文庫と言うのは、新潮社だったら新潮文庫角川書店だったら角川文庫というように、一つのレーベルは一つの出版社から刊行されるのが普通なのですが、今回の話はA社B社C社があわせて「ABC文庫」というのをたちあげて、A社からもB社からもC社からもABC文庫が発売されるという企画なのだそうです。ふむふむ、今まであまり聞いたことの無い斬新な企画です。
これが実現すると、大手版元による文庫市場の寡占化が崩れる可能性があるという意味で、ちょと興味深い企画です。例えば中堅版元のA社は、自社で文庫レーベルを持っていないが故に、単行本でヒットを飛ばしてもそれを文庫化して継続的にコンテンツを販売することができず、泣く泣く30万程度のはした金で大手版元に文庫化権を売らなければならなかったのが、共同レーベルがあれば自社で文庫化できるわけです。
具体的な例を挙げてみましょう。この例には他意はないのですが、

孤宿の人 上

孤宿の人 上

という本があります。宮部みゆき作品なので、文庫化すればロングで売れそうな気配が漂っています。しかし刊行元の新人物往来社は残念ながら文庫レーベルを持っていません。これまでであれば、新潮社などの大手に文庫化権を販売して、ハイおしまいという感じなのかもしれません。(実際にそうなのかどうかは、私は一切知りません。あくまで例です)しかし、ABC文庫のような共同レーベルに新人物往来社が参加すれば、この作品を自社で文庫化することができます。書店的にも、安定的に良作が長期で供給されるレーベルであれば、やはり棚は確保しますから、大手でなくても文庫でロングセラー化する可能性が出てきます。
勿論倉庫を共通化することなど、レーベル共通文庫には越えなければならないハードルもあるのですが、中小の出版社にとっては、結構いい話なんじゃないかなーと思ったりしました。中規模の版元が無理にがんばって文庫レーベルを一社で出して息切れ失速するぐらいであれば、肉を斬らせて骨を断つこの戦法も有効なのでは?