KuLaSu season
本日は大阪のなんばパークスに4月に出来ました、旭屋書店の新業態店舗「KuLaSu season」です。
旭屋書店には銀座を本店にしている東京旭屋書店と梅田を本店にしている西日本の旭屋書店があるのですが、最近の注目は西の旭屋です。勝手に本屋ミシュランでも一度甲子園のららぽーと店をレポートしましたが、その後もりんくうタウンや北九州八幡、高松などのイオンの中に大きな規模で積極的に出店を続けており、そのいずれも店舗デザイン的に先鋭的で、個人的に非常に注目している書店の一つです。さて、そんな店舗デザインでは最先端を行く旭屋書店が、コンセプト的にも先鋭的な書店を作ってしまったのが、今回ご紹介する「KuLaSu season」どんな店なのでしょうか?
宮部みゆきの「火車」の舞台になった大阪球場の住宅展示場跡にできたなんばパークスの5階にこのお店はあります。なんばパークスは東京で言うと六本木ヒルズみたいな再開発施設ですので、ちょとでかいです。迷路のような施設をうろうろすること7〜8分。ようやくたどり着きました。
この店のキャッチフレーズは「輝きのある暮らし、はじめる」というもので、非常にライフスタイル提案に特化した店構え。「本とインテリア雑貨のセレクトショップ」+「憩いの空間カフェ」+「身も心も豊かにするカルチャーセンター」と書かれています。
ではまず「本とインテリア雑貨のセレクトショップ」から行ってみましょう。入口にあるのは、まず雑誌売場です…、って、あれ?これだけ?雑誌売場にはちまっとした背の低い什器が申し訳程度においてあるだけで、全くボリューム感がありません。どうやらコンセプト的に本当は雑誌を売りたくないようです。どうもしょうがなく置いている感じが伝わってきます。
奥に進んできましょう。壁面に沿って通路左側は、文具の売場になっています。オフィスっぽさを模した部屋にステーショナリーが置かれており、そのまま文庫・ビジネス・文芸書売場につながっています。什器はスラント型。ここの展開も中途半端です。壁面天井まで書棚があって、ボリューム感はでているのですが、そもそも主通路からは隠れた場所に配置されており、あまりコンセプト的に前面に押し出したくないという意図が感じられます。
ここは普通の店なんじゃない、セレクトショップなんだ!だから雑誌とかベストセラーの新刊とかは売りたくないんだ!でも完全に置かない、となると売上的に怖い。しょうがない、ちょっとだけ置くか、みたいな売場です。
では通路右側を見てみましょう。おお!これはすごいですね。売場が生活シーンの部屋別にゾーンわけされ、ライフスタイル系のおしゃれ実用書が、その部屋ごとにわけて陳列されています。斬新です。百聞は一見に如かず。写真で見ていきましょう。
たとえば、ここは「バスルーム」の売場。石鹸やリネン、アロマ雑貨なんかと一緒に本が置かれています。柱からシャワーが生えてます!
ここは「子供部屋」という売場。絵本やキッズ向けの雑貨が、非常に楽しげに陳列されている空間です。二段ベッドがででんと設置されてます。
「ベッドルーム」という売場には、ベッドやピローと一緒に飛鳥新社の「365日のベッドサイドストーリー」が置かれてました。
ここは「書斎」。大画面テレビにソファがあって、ホームシアターみたいな空間になっています。私が行ったときは「しゃべれどもしゃべれども」のPVが上映されていて、その映画関連書籍がおかれてありました。お酒の本に素焼きのお猪口という組み合わせも。
ガーデニングの本は、本当に庭みたいになっている売場の中に陳列されています。これが旭屋がやりたかったことなんですね。うーむ、これはかなり徹底してますね。非常に先鋭的。ここまで作りこんでいる店は初めて見ました。
では次にカフェ行ってみましょう。カフェはマザー牧場が運営していて、コーヒーを頼むとプチソフトクリームがついてきます。私が行ったときはガラガラでした。カフェの店内にも絵本とかが置いてあって、エドワード・ゴーリーの絵本などを読みながらコーヒーが飲めるようになっています。
- 作者: エドワード・ゴーリー,柴田元幸
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2004/12/21
- メディア: 単行本
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さて、最後にカルチャーセンターです。カルチャーセンターは売場の一番奥から行けるようになっています。産経学園がやってるようなのですが、ここは大盛況でした。スタジオが2つ、教室が5部屋、茶室まであるという充実のスペースもさることながら、講座メニューも200をこえ非常に豊富で、これはすごいですね。カルチャーセンター+書店という組み合わせは、これまでもありましたが、ここは書店から講義風景がガラス越しに見られるようになっており、これまでの中でも成功パターンになると思います。
さて、この斬新な書店の総合評価はどうつけるべきでしょうか。うちの社内でも見学に行く人が多くて、評価は二分されました。「めっちゃいい!こういう店をやりたかったんや!」という人と、「うーん、面白いけどそれだけだね。お店の自己満足でしょう」という人です。
私の意見はそのどちらでもあり、どちらでもないといったところでしょうか。確かに店舗デザイン・コンサプト的にはこのチャレンジ精神はすばらしく、そこは評価できると思います。こういう店は確かに私も一度作ってみたかった!
でも実際に出来上がった店を目の前にして、ぬぐいきれない違和感があったのも事実。どうも伝わってこないのですよ、売場から「本を買って」というメッセージが。私はこの広い店内をくまなく歩き回りましたが欲しいと思った本は残念なことに1冊も見つかりませんでした。どうもこの店舗では、空間のデザインや雑貨のプレゼンテーションが、本の存在感に対して勝ちすぎていて、そっちに目が行ってしまい、本を買う、探すという気分になりにくいのですね。本が主役の座を奪われてしまった書店では、やはり本は売れないものです。ここはもう少し雑貨の比率を減らすべきだったかもしれません。雑貨は雑貨屋でも買えるのですから、書店では本を売ることをやはり第一に考えなくてはならないでしょう。
もう一点、本のMD力にも課題を感じました。もう今は改善されているのかもしれませんが、私が行ったときは書棚の展開が非常に大雑把で、単品単品を見ると力のある本ばかりなのに、並べ方が適切でないために本の魅力が伝わってこないという状態になっていました。在庫発注するチームが、什器の形状とかをあまり考慮せずに、おしゃれ系の本を各10冊で発注しといたらええわ、みたいな発注をしたんじゃないのかという在庫の持ち方になっていたのが気になりました。
ものすごい店になるポテンシャルは感じられる店です。今後に期待です。「書店」的な実力で言うと現時点ではまだ総合評価75点ぐらい。これからもっとよくなる店だと思います。