ヴィレッジヴァンガード自由が丘店

書店

chakichaki2005-02-04


近頃の新入社員や若い店長と「どういう店をつくりたいか」という話になると、必ず「ヴィレッジのような店が作りたいんです」というやつが３人に１人はいて参ってしまいます。いやいやあれは特殊な店なんだってば。そもそも普通の店もまともに作れない君たちにヴィレッジが作れるわけないでしょう？とそういう話を聞くたびに心の中で突っ込む私です。ヴィレッジを作るには、豊富な商品知識に裏打ちされた類稀なる目利きのセンスと高度な空間プロデュース力が必要なのです。
ヴィレッジでは雑貨の仕入の選定権限は各店店長にあるそうなので、店長の力量で当然店舗のレベルも変わるのですが、その中でもカリスマ店長と呼ばれる大八木店長の店がこのヴィレッジ自由が丘なのです。POPうまいなぁ。
大八木さんは「編集会議」で「どっちのPOPショー」にも登場される方なのでご存知の方も多いでしょうが、閉店してしまった六本木ヒルズのヴィレッジの店長だった方です。森ビルのオンリーワン戦略のあおりを受けたのでしょうか、ヒルズのヴィレッジは「らしさ」が全然発揮されておらず個人的には全然駄目駄目な店でした。あの店を褒めていたマスコミが多数ありましたが、見当違いも甚だしい、褒めるなら下北沢を褒めんかい！と当時は憤慨したものです。まぁそれでも月商５千万もあったのですから立派なもんです。もっとも書籍の売上はわずか１５％だったと聞きますからほとんど雑貨屋ですけどね。Virginが出店をドタキャンするぐらい家賃の高い場所だったのが悪かったのか、そもそも３００坪はヴィレッジにはでかすぎたのか、内部事情は良く知りませんがヒルズのヴィレッジは短命に終わりました。
自由が丘の話に戻りましょう。先日ご紹介したBAGSとは違い、ヴィレッジの方はスイーツフォレストにやって来るような若い女性をメインターゲットとして設定しているようです。大八木さんがヒルズから自由が丘の店に移ってきて売場は大幅に変わりましたが、まず品揃えが極端に女性よりになりました。一押し商品が「巴里の空の下、オムレツのにおいは流れる」になり、料理にファッションにライフスタイルが急拡大しております。平台の作家にしても江國香織に安野モヨコに西岡兄妹ですよ。リサとガスパールに酒井駒子ですよ。私のような中年男はおよびでないですよ。という感じ。ですが、もっと変わったのが、その陳列方法です。ほとんど全ての商品が面陳になってしまっているのです。棚差しがなくなってしまいました。出た！六本木方式。オール面陳！
これどうなんでしょうか？面陳にすると売上があがるとよく言われますが、売場の本が全部面陳になっている本屋なんて滅多にありません。ちょっと検証してみましょう。
私は一度面陳の効果を数値的に計測しようとして、文庫の同じ棚の２段分を面陳にした場合とすべて１冊ずつの在庫で埋めた場合の売上比較をおこなったことがあります。その結果どうだったかというと売上はまったく同じ。つまり面陳したことによって、１タイトルの売上冊数は増えたけれども、棚のタイトル数が減って売上がさがった分と相殺されてしまったわけですな。これを数値換算してみましょう。仮に棚が９００Ｗだった場合、文庫は１段で８タイトル面陳で並べることが出来ます。普通に１冊ずつ差した場合は約７２冊程度入ります。８タイトルの売上と７２タイトルの売上がほぼイコールなのですから、面陳にすると棚差しに比べて約９倍売れる、という計算が成り立ちます。おお、すごい。でもよくよく考えてみたら、これってただの表面積の比例でした。文庫だと表紙の面積が背表紙の面積の約９倍なので、約９倍人の目につきやすくなってるだけなのでした。割とシンプルな相関関係だったのですな。
じゃあ面陳にしてもトータル売上が変わらないから無意味なんですね、となるのですが、そうではありませんのです。先ほどの実験は「コメントＰＯＰ」を一枚もつけずに行なったものなのです。そう、面陳にするとコメントＰＯＰをつけることができます。アマゾンではリコメンドが１万円の価値がある、と評価されていますが、要はここが売り伸ばしの秘訣なんです。コメントのパワーで９倍だった売上を９０倍にもすることが可能なのです。逆に言えば、コメントのない面陳は無意味なのでした。
では自由が丘のヴィレッジの戦略はどうなのでしょうか。そう、ここはＰＯＰがうまいのです。つまり面陳だらけにすることによって武器であるＰＯＰを最大限に生かすことで売上をあげるという戦略は正しいと言えます。逆に言うと大八木さんの実力があって初めて成り立つ売場である、とも言えます。セレクトショップならではの高等戦術でしょうね。
この店はセレクトショップ型の店舗を設計する時のお手本にさせていただいているので、評価は高めで８０点。でも乙女チックすぎるのでマイナス５点します（笑）総合評価は７５点です。
長くなってきたので今日はこのへんで。次回はオール面陳の弱点について考察してみたいと思います。