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さてこの本は、2006年の9月にどこかの会場でおこなわれた鼎談イベントを収録したもののようです。参加者は、自称出版評論家の大内明日香さん、コミュニケーション評論家?の羽山大輔さん、日本経済新聞の川崎支局長の平片均也さん。内容を一言で言うと、「新刊書店は顧客を向いていないからダメなんだよ。ブックオフを見習え」というものです。
この本が挙げるブックオフがすばらしい点はこちら。
- 店にある本すべてが一度は売れた本である(新刊書店にあるのは、「書店が売りつけたい本」であって、そこには顧客目線が入っていない)
- 平積みが無い(つまり品揃えが豊富)
- 店舗ごと地域ごとに品揃えに個性が出る(新刊書店はパターン配本だから金太郎飴だ)
- 棚設計が簡潔である(基本的に一般書・文庫・新書・マンガの四つの区切りしかなく、あとは著者の五十音順)
- 古本漁りが手軽に楽しめる(旧来の古書店は入りづらい)
- マンガを立ち読みできる(新刊書店はシュリンクしてるから読めない)
- 会員カード、割引などサービスが豊富(※注:ブックオフがまだいけいけだった2006年当時のお話です)
- 深夜営業がデフォルト
同じくこの本が挙げるブックオフが出版業界に嫌われる理由。
- 出版業界の一番美味しい部分であるところの「スケールメリット」を食ったから
確かにその通りなんです。でも残念ながらそれだけではないんですよ。それだけだったら、ここまでは嫌われません。
まあ話をされている方が、業界については基本的にはそんなに詳しい方ではないので、色々とトンチンカンなことをおっしゃっていたりはしますが、逆に業界の内部事情に詳しくない一般の方から「客観的」に見ると、こういう評価になるのだな、という意味では、勉強になる一冊でした。
ちなみに私の意見はこうです。新刊書店は、ブックオフに見習ったほうがいい、というのは、全くその通りだと思います。これは昔このブログに同じようなことを書いた記憶があります。ただし、それは顧客優先主義という意味ではありません。
今の新刊書店が顧客目線をもっていないかというと、それは大間違いで、間違いなくブックオフよりも危機感もあるし、色々とやろうとしています。ただし、店頭における顧客目線での改革をやろうとしているのは書店だけであって、取次、出版社については、その限りではないというのが現実です。書店的には残念なことですが、世の中の変化についていけていない業界三者の代表として、その流通の最前線である書店が、大内さんのような一般ユーザーからは「顧客を向いていない」と評価をされてしまっているわけです。実際のところ、業界三者の協力なくしてブックオフに対抗することはできないでしょうから、その評価は甘んじて受け止めなくてはなりません。
ただ、そもそもブックオフは顧客優先主義ではなく、従業員第一優先の会社であり、店舗です。実はそれこそがすばらしい点なのですけど、現在の新刊書店で従業員優先主義の企業はほとんどありません。その余裕もないからです。
ブックオフに見習うべきは、私は以下の3つだと思っています。
- 従業員優先主義と教育の最重視
- 誰にでもできる簡単なオペレーション
- 無駄なことは一切やらない、合理的でシンプルな店舗設計
言うは易しなので、私もブックオフに実際にはいりこんでオペレーションを体験に行ってきました。機会があったらそのとき感じたことを別の機会に書いてみようかと思います。