洋販の倒産

YOHANに対する銀行の融資がストップ、7月末で破産予定という情報を入手したのは、わずか2日前だった。なすすべがなかった。
賀川氏が去り、ランダムウォークが次々と閉店し、倉庫が移転縮小し、スタッフがどんどん辞め、という状況だったので、ああついに来たか、というのが業界の大方の感想だろう。
今回の事件の影響はかなり大きい。日本の洋書販売は、実は大部分をYOHANに頼っていたからである。洋書で有名な丸善も、かつては自前で洋書を仕入れていた時期もあったが、今ではすっかりYOHANに頼っている現状だ。もちろん影響は丸善だけにとどまらない。洋書取次の最大手が倒産したのだ。下手をすると、日本の書店から洋書が消え、洋書はアマゾンでしか買えない、なんて最悪の事態が発生する可能性だってあったわけだ。幸いなことに日貿や嶋田洋書、UPS、タッシェン、ベイカーなど、洋書の他卸が健在であり、仕入れ先を使い分けることで最悪の事態は回避できそうである。東京ブックランドもICG資本だと聞いていたので心配していたが、どうやら存続するようでよかった。ただし、残念ながらYOHANの事業自体を引き継ぐところは今のところは無いようだ。まあこうなった以上、実質引き継ぐのは不可能に近い。
今回一番問題になるのが洋雑誌だ。洋雑誌に関しては、日本ではほとんどYOHANしか取り扱っていなかったため代替がきかない。基本的に洋雑誌は水曜と土曜に入荷するのだが、今週の土曜日の週刊誌などは、もはや手配が絶望的だ。当分入荷手配が難しいことを考えると、かなりの顧客離れが進むだろう。日本の洋雑誌市場はこれをきっかけに壊滅するかもしれない。丸善はどうするんだろうか?直仕入とかにするしか方法が無いのか?タワーから仲間卸してもらうことってできるのか?いい方法が思いつかなくて困っているので、どなたかご教示いただきたい。

ところで今回洋販の破綻よりも傘下であるABCの支援をブックオフが名乗りでたという話のほうが話題になっている。ICGは、ABCの支援を最初日販に持ちかけたらしいが、それが断られ、結局ブックオフに依頼することになったらしいという噂を聞いた。去年からブックオフは裏ではABCを買収しようとしていたので、ブックオフにとってはこの話は渡りに舟だったはずである。
ブックオフがABCの支援をする狙いは2つあると思われる。
1つ目は佐藤社長が公言している通りで、ブックオフのノウハウにこれまで無視してきたマーチャンダイズという考え方を導入したいというものである。現在のブックオフ本部はMD能力がゼロである。したがって、膨らんでしまった在庫を店舗や本部のMD提案で売り切っていくというノウハウが無い。要は何千冊と持ち込まれてしまい、105円棚でも動かなくなってしまった「五体不満足」やシドニィ・シェルダンは、今のブックオフは結局廃棄するしかない現状なのだが、MD提案力を身につければ、そうした在庫を何とかできると考えているのだ。ABCに人を投入して「提案して売る」ノウハウを三年計画ぐらいで回収するつもりなのだろう。伸び悩むブックオフの既存店を救う柱の一つとして位置づけているに違いない。
2つ目は、ブックオフ側からの出版業界とのコネクションを強化したい、つまり出版社と仲良くなりたいという意図だ。出版業界のブックオフへの嫌悪感は異常ともいえるもので、すでに感情論の話になってしまっている。例の一億円寄付の話もそうであるが、ブックオフ側としては歩み寄りたいのに、出版社側ではシャットアウトしているという現状に、ブックオフは困っているのだ。ブックオフとしては、出版社に対して、返品で戻ってきてしまった倉庫の死に在庫を断裁処分するぐらいなら、買い取るので新古本としてブックオフの流通網にのせませんか?という提案をしたいはずなのだが、現状では出版社側がなかなか交渉テーブルについてくれないという歯がゆさがあるのだろう。実際はゴマブックスなど、そうしたスキームにのってきている出版社もあるのだが、今回のABCの件を突破口にしてそうした出版社を増やしたいと考えているのだと思う。
いずれにせよ、ABCをブックオフが支援するからといって、新刊と中古本がぐちゃぐちゃになるとか返品が混じるみたいなことは、起こりえないだろう。考えるべきは、そうしたセコイ話ではなく、顧客目線で今回の倒産をどう未来に生かしていくか、ということだ。日本の出版業界は、はっきりと衰退期に入っていると私は認識している。なかなか体質が改善されない古い業界であるが、さすがにこの事件はカンフル剤になりうるのではないか。