ABC青山ブックセンターの再生 (新風舎文庫)

ABC青山ブックセンターの再生 (新風舎文庫)

ABC再生の舞台裏を描いた迫真のノンフィクションとありますが、実のところその部分はほとんど記述が無く、簡単に内容を要約すると「ABCが再生したのはABCが他の書店と違ってすばらしい書店だったからだ」という青山ブックセンターのヨイショ本でした。この手のよくある誤解に基づくABC賛美論は、いい加減もう聞き飽きましたので、そろそろ青山ブックセンターを書店としてどう見るべきかという本質論を語ってくれる人を待望しているのですが、なかなかそういう意見は世に出てこないみたいです。多分同業者である全国の多くの本屋さんの胸の奥に、今後もひっそりとしまわれ続けていくことなのでしょう。
でもこの本は、ただのヨイショ本ではなく、なかなか興味深い本なのですよ。というのは、当時のABCの運営や経営の実態がリアルに非常によくわかるからなのです。たとえば87ページには、ABCの破産する前年度の各店の売上金額と人件費が一覧表で掲載されています。これだけでも買う価値があります。ロス率も掲載されています。118ページにはABCの在庫回転率の目標値と実績値が。目標値は12回転なんだそうです。無茶苦茶な数字ですね。
運営については店長の仕事と学芸員(ABCでは各ジャンル棚の担当者をこう呼ぶ)の仕事内容を結構細かく追いかけています。個人的には店長の仕事の仕方が非常に実用的で面白く読めました。これはノウハウのかたまりです。学芸員の仕事は、一般の書店には応用が利かないものがほとんどなのであんまり参考になりません。
なお、人件費を抑制して効率的な経営を志向するこ業界にあって、ABCは例外的に人(従業員)を大事にする会社であった、だからあれだけ個性的な棚ができたのだ、という一節があるのですが、その点についてはどうしても納得できかねます。いや、だって今はどうかしらないですけど、当時のABCはあれだけ優秀な書店員に対して本当にすずめの涙しか給料支払ってませんでしたし、その額たるや多分業界の中でも最低の水準だったんじゃないでしょうか。当時のABCの方が読んだら失笑してしまいそう。
評価B