本屋大賞メタル斬り(前編)

chakichaki)  みなさんこんばんわ。今年も本屋大賞の投票の期日が迫ってまいりました。昨年同様、今年も毒舌キャラのmaruruuさんをゲストにお招きしまして、本屋大賞メタル斬りをお届けしたいと思います。念のためもう一度申し上げておきますが、豊崎さんと大森さんのようなレベルの高い対談にはなりようがありませんので、そういうのは期待なさらないよう、あらかじめご了承ください。われわれのは所詮飲み屋の放談レベルですので。ということでmaruruuさん、よろしくおねがいします。
maruruu) よろしくおねがいしまーす。
  さて今回なんですが、折角書店員同士が対談をしているのに、ストーリーが面白いだのつまんないだの感想を述べ合うだけなのも芸が無いと思いまして、それぞれの作品を購入しているのは、一体どういう人たちなのか、Amazonっぽく「この本を買っている人は、こんな雑誌をよく買っています」みたいなデータなどを用意してみました。

神様のカルテ

神様のカルテ

神様のカルテ

[BOOKデータベースより]
神の手を持つ医者はいなくても、この病院では奇蹟が起きる。夏目漱石を敬愛し、ハルさんを愛する青年は、信州にある「24時間、365日対応」の病院で、今日も勤務中。読んだ人すべての心を温かくする、新たなベストセラー。第十回小学館文庫小説賞受賞。

■この本を買っている人は、こんな雑誌を買っています。 「With」「LEE」「MORE」「sweet」「ダ・ヴィンチ

  なんでこれがノミネートに入ってしまったのか、そしてなんで人気があるのか私には全く謎。私の中では一番最下位だったんですけど。
  でも結構売れてるよね?10万部!?めっちゃ売れてるんじゃないですか?
 売れてます。
 購入層分析によると女性客が7割ですよ。
 めちゃめちゃ買ってますよね。すごいですね。確か「特ダネ!」に小学館のCM枠があるんですよ。そこで今「神様のカルテ」大増刷っていうCMをやってましたよ。そこで女性人気を煽ってるんですよ。
 なるほどー、CM効果かあ。最近、医者ものが人気だしなぁ。そういうのもあるかなあ。
 んー、でもそこまで売れる理由がよくわからない。別に内容的は悪くないはないとは思うのですが。ま、私は何よりもモリミーを真似たような、あのとってつけたような文体がちょっとダメでしたね。
  まあ、私はそんなに悪くはなかったですが、すごくこじんまりした話に思えました。
 あのおばあちゃんの話はよかったですね。
 安曇さんのエピソードですね。個人的には安曇さんの旦那さんのエピソードに泣けましたけどね。
 そうですね、ああいう話が、主人公と奥さんの絡めてもっとあったらよかったんですけどねー。
 あんまり一緒に住んでた人たちが全然絡んでこなかったよね。
 もっと奥さんも絡んでくるのかと思いきや、写真を撮りに行ってるだけでしたし。
 奥さん、風月堂のカステラを買いに行ったぐらいしか活躍してなかった気がする。
 もうちょっと主人公がらみのいい話があったらよかったのかなあと。
 評価的にはどうですか?
 Cですね、申し訳ないけど。
 低ー!!
 私の中では絶対人に読ませたいというのが、一番いい評価なんですよ。次に、自分としてはもう一回読みたいとか、ずっと持っておきたいとかのがB。まっさきにブックオフに売りに行こうというのがC。基本的にどんな本でも結構持っておきたいと思うほうなんですが、これは微塵も持っておこうとは思わなかった。
 うわあ、毒舌炸裂やなあ(笑)
 ま、私には合いませんでしたね。ちょっと無いわー、という感じでした。
 女性向けなのに?
 何ですかね、ある意味私の想像を超えるような裏切りとか、新しい文章とか文体とか表現とか、そういうのを期待してたんですが、そういうのが無かったです。頑張ったら自分でも書けるかな、と
 だって、これデビュー作なんでしょう?しょうがなくないですか?デビュー作としてはすごいと思うんですけど。
 ま、デビュー作にしては頑張っていると思います。でも本屋大賞ノミネートに入るというのがね。まあ厳しいかなという感じです。

評者 評価 予想
chakichaki B− ×
maruruu C ×

神去なあなあ日常

神去なあなあ日常

神去なあなあ日常

[BOOKデータベースより]
美人の産地・神去村でチェーンソー片手に山仕事。先輩の鉄拳、ダニやヒルの襲来。しかも村には秘密があって…!?林業っておもしれ〜!高校卒業と同時に平野勇気が放り込まれたのは三重県の山奥にある神去村。林業に従事し、自然を相手に生きてきた人々に出会う。

■この本を買っている人は、こんな雑誌を買っています。 「ダ・ヴィンチ」「FRaU」「yomyom」「ku:nel」「CREA」「日経Woman」

 次は、神様つながりということで「神去なあなあ日常」にいきましょう。
 これはchakichakiさんが、「面白いと聞いた。宮崎駿監督が帯を書いて売れている」って言ってきて、「じゃあ三浦しをんは好きなので買っときます」ってなった本ですね。
 すみません、買わせてしまいました…
 いや、でも好きですよこれ。あの、もともと三浦しをんが好きなので。これも爽やかで素敵なんですけど、林業の話なんで、林業ってどういうことをしてるのかとか、林業の生活とか山の生活とかわかって面白かったです。けど、何かパンチが無いというか・・・うーん。
 まあ、全部予想したとおりの話の流れになりましたよね。林業の話で、最初の数ページ読んで、あ、多分こういう話になるんだろうなというのが、まったくその通りになりました。
 淡々と、淡々と、淡々と続いて、あ、終わった、終わってしまった(笑)みたいなそんな感じでしたね。読みやすかったですけど。もともと三浦しをんの文体が好きなんですよ。新しい発見があったわけでは無いけれど、まあ文章が好きなんで、割と好きな感じで読めたのは確かです。でもこれを1位に推そうとかではやっぱり無いですね。
 評価はどうなります?
 ちょっと誰にでも薦められる感じではないですね。ある程度三浦しをんが好きな人にしかすすめられないので、評価的にはBですかね
 「風が強く吹いている」と比較したらどうですか?
 「風が強く吹いている」は、めっちゃ好きなんですよ。あれは題材的に私の好きな箱根駅伝というだけでも群を抜いてすごくよかったです。
 「まほろ町」は?
 あれは完全に趣味の世界なんで(笑)、あまり好きじゃないです。chakichakiさんはどうだったんですか?
 個人的には主人公のキャラクター設定が、こんなやつおれへんやろ、というのはありましたね。ちょっと爽やか過ぎる。もっとあの年代の男子はモンモンとしてると思うんだけど。
 爽やかでしたねー、本当に。あまり反抗することもなく順応してました。作品としてはまあ、悪くはないけど、すごくいいよオススメ!とは言い切れないという感じかな。

評者 評価 予想
chakichaki C+ ×
maruruu B- ×

猫を抱いて象と泳ぐ

猫を抱いて象と泳ぐ

猫を抱いて象と泳ぐ

[BOOKデータベースより]
伝説のチェスプレーヤー、リトル・アリョーヒンの密やかな奇跡。触れ合うことも、語り合うことさえできないのに…大切な人にそっと囁きかけたくなる物語です。

■売行指数  34  ■購入層男女比  38:62
■この本を買っている人は、こんな雑誌を買っています。 「ダ・ヴィンチ」「ku:nel」「LEE」「yomyom」「文藝春秋」

 これはすごい素晴らしかった。好きですね。やっぱり小川洋子って巧いなあって。
 とにかくね、ちょっと美しすぎる話でしたね。
 そうですね、あのすごい物悲しい感じが好きですね。あの話はああいう人が本当にいたんですか?
 チェスを指す人形(「メルツェルの将棋指し」)は知ってますけど、リトル・アリョーヒンが実在したのかは知らないです。
 いやー、本当にいたのかも、と思ってしまいました。
 まあ、これを題材にしてそういう小説を書こうとした、その着想自体がすごいですよ。
 すごいですよね。しかも小説として成り立っています。文学的にも。
 読んでる人も品がよさそうな感じがします。この本を読んでいる人はこんな雑誌を読んでいますの二番目に「Ku:nel」が入ってるあたりとか。
 そうですね、これは「らしいな」と思いました。
 でもこの作品、映像化は無理じゃないですか?
 ああ、無理ですね。
 今回、ノミネート作全作品を映像化できるかどうか想像してみたんですが、これは厳しい気がしてます。もし無理にやろうとすると、昔のドイツ映画にあった「ブリキの太鼓」みたいな感じになっちゃうんだろうなあと。
 それは観てないですけど、映像化はちょっと難しそうです。
 日本で無理やり映像化しようとしたらどうなるんだろう?チェスを将棋にしてしまうとかして。
 将棋!?ええーっ??(笑)まあ、出来ないことは無いと思うけど、何かちょっと違うような・・・
 将棋にすると、あの上品な美しさが何か損なわれる気がしますね。
 チェスと将棋って似てるようであまり似てないというか、将棋って、もっとこう、勝負的な・・・。あ、しかもあれですよ。将棋だと椅子にもぐれないからダメですよ。将棋は着物着て畳の上で、だから。
 畳の上で着物を着た人形が、パシンパシンと将棋をうてばいいじゃないか
 美しくないなあ。ちがうイロモノ的な何かになってますよそれ(笑)
 将棋小説ってあるじゃないですか。小説というか、大崎善生さんの「聖の青春」とか「将棋の子」とか、団鬼六さんの「真剣師小池重明」とか、将棋指しを題材にしたノンフィクション結構好きなんですよ。それもあって、私はこの話はすごく好きですね。まあ描かれている次元は全然違うんですけど
 そうですね、よかったです。
 でもね。個人的にはこの作品は一押しじゃ無いんです。物語が美しすぎる世界観でできていて、自分の身近にある共感できる世界とは違うところにあるな、っていう、透明な壁みたいなのを感じました。
 そうですねー、何か深く自分の中で余韻があるけれども、ものすごく揺さぶられるという感じはそこまでは無かったですからね。
 やはり、みんなには読んで欲しい作品ではあるんだけれども、まあ今回の本屋大賞ということではまだ上がいる、という感じ?
 すごい良かったんですけど、小川洋子さんはある意味手堅いな、上手なんやろうなあと、思いながら読んだんです。で、想像通りだったなと。まあその想像通りのクオリティでずっと本を出し続けるというのはすごいんですけどね。
 「ミーナの行進」は読みました?あれも美しかったですよね。
 いつも裏切らないですよね。小川洋子さんはこのへんはちゃんと書いているやろうというところを絶対にはずさない作家さん。すごいなあと思いますね。
思うんだけど、小川洋子さんの書いている小説って、後ろ向きな印象をうけない?あ、後ろ向きっていうのは過去を向いているっていう意味なんだけど。
 ああ、そうですね。
 ただただ美しい過去を思い出して涙する、みたいなのが多い気がするんですよ。小川洋子さんを読んで、明日に向かってがんばろう!っていう感じにはならないですよね。
 パワーになるというよりか、静かな余韻が体に浸透していく、そういう作家さんです。
  元気系の小川洋子さんっていうのを、ちょっと読んでみたい気もするんですけどね。
 元気系?(笑)それは、ものすごいハードル高いですね。小川洋子さんの文才をもってすれば書けそうな気もしますけど、そういうのが出たら本屋大賞じゃないですか?予想を上回るという意味で。
 どうでしょう、これはどれぐらいいくでしょう。多分結構票は集まっていると思います。
 評価的にはAなんですけど、何位ぐらいかなあ。結構いいところいくと思うので3位とか4位とか

評者 評価 予想
chakichaki A-
maruruu A ×

横道世之介

横道世之介

横道世之介

[BOOKデータベースより]
なんにもなかった。だけどなんだか楽しかった。懐かしい時間。愛しい人々。吉田修一が描く、風薫る80年代青春群像。

■この本を買っている人は、こんな雑誌を買っています。 「一個人」「ダ・ヴィンチ「コーラス」ku:nel「文藝春秋」

 これは普通に面白かったです。
 気になるのは、この本を買った人はこんな雑誌を買っています、に何故か「コーラス」が入っていること。
 え?「コーラス」が入ってるんですか?私、「コーラス」も買ってるし「横道世之介」も買ったけど、何故なのかわからないです。
   「一個人」と「ダ・ヴィンチ」は分かるんだけどねー。
   読みやすいし、いいとは思うんですけど、巷の評価ほど、私にはこれをすごいとは思わなかったですね。私が女性でこれを共感できる年代ともずれてるっていうのもあるのかもしれないけど。やっぱり40代以上とかになると共感できるんですかねー?
 That’sバブル世代
 そう、完全にその時代の空気とか、こういう風に生きてたとか、とか入ってた。
 私は学生時代を思い出しました。
 あ、そうですか?
 あれ?思い出さなかった?全然そんなこと無かった?
 はい。
 それは意外だなあ。まあ私の学生時代には全然似てないんですけどね。ダンパとか、みんなで海に行ってクルーザーとか、そういう輝かしい感じは無かったですから。でも学生時代のあの貧乏な生活感はとてもよく似てました。ただ、主人公や作品自体については好きにはなれませんでしたが。
 あんまり共感出来るところがそこまで無いんですけど、それを超えるところで何かあったら、もうちょっとのめり込んだりできたのかなあと。文章はうまいんで普通に面白く読めましたけど、何かもひとつ心に響かなかった感じがします。
 やっぱ四十代じゃないと共感できないんですかね。
 これを読んだすぐ後に「悪人」を読んでしまったんですよ。そしたら「悪人」がめちゃくちゃ面白くて!もちろんあれも全く犯罪的には共感はできないですけど。あれを読んだあとだけ余計に比べると「悪人」のほうがいいなあと。共感とか、そういうのを超えた作品としての力と面白さがありました。すっごいあの作品は好きですね。
 それにしても、なぜ主人公はあんなラストになったんでしょうね?
 ねえ!しかもあんなにあっさりと。
 実際にああいう事件ありましたよね。あれを風化させないために書きたかったのかなあ?
 ちょっとラストは謎でしたね。実際にそういう人だったのか、わかんないですけど。
 あと、ラストのヒロイン宛の写真のエピソードで泣かせるのは、「ニューシネマパラダイス」のパクリでちょっとずるいと思いました。

評者 評価 予想
chakichaki B ×
maruruu B+ ×

植物図鑑

植物図鑑

植物図鑑

[BOOKデータベースより]
ある日、道ばたに落ちていた彼。「お嬢さん、よかったら俺を拾ってくれませんか?咬みません。躾のできたよい子です」「―あらやだ。けっこういい男」楽しくて美味しい道草が、やがて二人の恋になる―。書き下ろし番外編に加え、イツキ特製“道草料理レシピ”も掲載。

■この本を買っている人は、こんな雑誌を買っています。 「LaLa」「LaLaDX」「ダ・ヴィンチ」「LaLaスペシャル」「別冊マーガレット

 これ「この本を買った人はこんな雑誌を買っています」のタイトルがめちゃくちゃ面白いですね。
 「LaLa」「LaLaデラックス」「LaLaスペシャル」(笑)
 まあ、こんな作品は、他に無いですよ(笑)。そんな私も「LaLa」好きで読んでるんですけど(笑)。
 完全に「図書館戦争」のコミック版から読者が流れてきてますね。
 あのー、有川浩さんは嫌いではないんですよ。私もコバルトとX文庫、ティーンズハートで育っているので。でもちょっとこれは、あまりにも・・・ちょっと(笑)
 あまりにも!(笑)
 あまりにも!(笑)都合よすぎるというか、ちょっと理解をこえるところが多いので…。素敵な人が転がってくるとか、女の子が好きなシチュエーション、とは思うんですけど…、なんだかねー。
 いいんじゃないの?婚活中の人とかこういうの最高なんじゃないの?俺、読んでてヒロイン?の男の子、イツキ君みたいな奥さんいたらいいなあと思いましたよ。そこらへんの雑草とってきてヘルシーな料理作ってくれて、こいつ最高やなあ、って。
 最高やけど、謎すぎるでしょ!(笑)
 苗字言わないとか?
 苗字言わない人とか、そんな人と本当に一緒には暮らせないですよ!いくら雑草とか採ってきてくれて料理してくれても。
 現実的だねー(笑)。でもみんなそういうのが好きだから、これ読んでるんじゃないの?
 いやいや、私みたいな考え方が全員とは言わないですけど、現実と夢の、なんだろう、夢っぽいけどちょっとこう、現実っぽい、そういうところがいいんですよ!もう、これ完全に夢じゃないですか(笑)!こんな人はおらんし、これは無理です(笑)これは絶対に無い!無いし、ヤバイ!(笑)犯罪に巻き込まれそう(笑)
 (笑)
 ああいう夢的なコバルトとかは、あわよくばこんなことが現実に起こったらすごく素敵!みたいな、そういう夢か現実かわからんなーっていうところを上手く突くのがいいんですよ。
 でも電撃文庫とかもこんなんばっかりですよ。空から女の子が降ってきて、次の瞬間には同居してるっていうのが男子の理想なんですよ。その男女ををひっくり返してるだけじゃないですか。
  まあ、そうですね。
 面白かったのが、男子向けの場合、空から女の子が降ってくるパターンとか、荷物が届いて空けてみたら中に女の子が入ってるっていうパターンとかでもそうなんですけど、次の瞬間には、その女の子がお掃除洗濯料理とかしているんですよ。
 はいはいはい。
で、男の子はそれを「すげー!」って言って喜んで、それで終わりなんですよ。なのに、この「植物図鑑」だと、最初にルームシェアの契約の確認をするでしょ?食費は一日にいくらまでなら使っていいとか。
 うんうん。
 そこがすごく面白くてねー。男子向けのラノベだと、いくら女の子が空から降ってきて同居することになっても、「一ヶ月の食費はいくらいくらまでで」とか絶対に言わないんですよ。
 なるほど、そうですね。そこは現実っぽいんですね。
 そこが男性と女性の違うところなのかなあと思って感心しましたよ。完全に夢物語なのかもしれないけど、そういう生活感のある細かいところでは、やたら現実的なんだなあと。
 それにしても、本屋大賞には本当にきっちり有川浩枠があるんで、すごいですね。まあ、これよりは「フリーター、家を買う」のほうが私的には好きでしたけどね。暗い話ですけどね。

評者 評価 予想
chakichaki C ×
maruruu B- ×

(後編につづく)