これを読んでくれる人がいらっしゃるのかわからないですが、皆様、お久しぶりです。5年ぶりに書店の現場に戻ってきました。

毎日雑誌のフロクつけたり、コミックのシュリンクがけをやったり、文庫の一覧表チェックをやったり、修造のカレンダーが入ってこないよーと世界の中心で叫んだり、と日々の作業に追われております。書店の現場は大変だけれどもやっぱり圧倒的に楽しいです。
5年間のギャップは何もかもが久しぶりでしたが、5年前と何ら進化せず変わっていないことや、もしくはいつの間にか変わってしまっていること、そしておそらくこれからどんどん変わっていきそうなこと、など現場では肌感覚で感じ取ることが出来ます。

5年前に書店の仕事から離れて一番最初に思ったのは、書店に毎日のように行かなくなっても案外平気だったということでした。
スマホのニュースアプリは毎日起動して、読んでる文章量は確実に増えましたが、読書量は半分以下に落ちました。そうか、一般の人の本や書店へのスタンスってこれぐらいの距離感なんだなという割と当たり前のことを改めて学びました。
結局そうなったことで、自分自身が書痴的な方向に走らず、割と距離を置いてこの業界を冷静な目線で見ることになったのは、今となっては良いことだったのか悪いことだったのかはよくわかりません。この5年間は無駄な5年間であったかもしれません。
ただ、この年になってまた現場の一書店員からリスタートするというのも何かの縁であるし、最後までこの仕事に付き合っていこうという、ある種の覚悟のようなものが、ようやく自分自身の芯にすわった気がしています。

ブログを再開するにあたって、まず5年前と現在の違いということを比較して記録に残してみたら面白いのではないかと思うようになりました。
さらに言うと、5年前は、さらにその5年前とは違っていたはずですから、10年前との違いを考えてみるのも面白いのではないかと思いました。
まあ今は面白くなくとも、20年後に読んだらきっと面白いよ、多分。ということで20年後の読者のために書いてみたいと思います。
本当言うと、15年前20年前、つまりこの出版業界の右肩下がりが始まった頃までさかのぼることができれば、もっと面白いと思うのだけれど、もう流石に記憶も曖昧であるし、手元に資料もデータも何もないんですよね。
ということで、少しずつ書いていこうと思っております。
そんじゃーね。

Amazonの目指す場所

今年のブックフェアの基調講演で角川会長が出版業界は一致団結して打倒Amazonだ、みたいな話があったとか。
打倒Amazon! 出版社と書店の図書館構想
もう遅いって。
誰が見てもそんなことわかってると思うんだが。大手全社が、Amazonへは商品供給しません、ぐらい出来れば、何とかなるのかもしれないが、大株主になっていてすら何も出来なかったブックオフへの対処例を見てるから、そんなこと出来そうにないことぐらい私でもわかる。
こないだ、Amazonに転職した元同僚と飲む機会があったので、
「おまえのAmazonでのミッションって何なわけ?何をめざしてるんだ?」って聞いてみたんだけど
「世の中にあるリアルショップをすべて無くすこと。それも10年以内に」と即答されたときには、ちょっと言葉に詰まった。
そしてそれは不可能ではないと思っている、と付け加えられた。
いや、「黒船」から戦争を仕掛けられていたのは勿論ずいぶん前から知ってたけど、Amazonが世の中にあるリアルショップすべてに対して絶滅戦争をしているつもりだった、ということはそのとき初めて知った。
これまでの認識が甘すぎて、おのれの不明を深く恥じいった次第だ。目指している次元が違いすぎる。

ギヴァー

ギヴァー 記憶を注ぐ者

ギヴァー 記憶を注ぐ者

こないだ東北のある書店で、普段見慣れない本が平台の一等地に山積みされていて、連れとこれ面白いのかなぁなんて言ってると、通りがかった店員さんがそんなわれわれを見て激烈にこの本の素晴らしさをプレゼンしてくれました。
曰く、面白いです、傑作です。もともと児童文学でニューベリー賞をとった作品で昔講談社から出ていたんですが、一度絶版になったんです。読者の復刊リクエストがすごくて、一度は講談社まで話が行ったんですが断られたんですよ。でもみんなそれでも諦めずに、版権ごと買い取って別の出版社から出しなおしたんです。それぐらいの本です。東京でも売っている店は少なくて、こないだここで買われた方から生涯最高の本を紹介してくださってありがとうございましたという手紙ももらいましたよ。
そこまで言われれば買うしかあるまい、ということで買って読んでみたのですが。
確かに、これは、傑作でした。
すべてが管理された近未来の人間社会が舞台のSF(児童文学だけど)。カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』に読後感が似てる。
映画化したら、テーマ的にも色彩的(ここポイントね、白黒映画がよいです)にもとても怖い映画になるだろうな。
最近、本を読んでもわざわざブログに書くほどでもないかなーと、怠惰に更新しておりませんでしたが、この本は流石に読んだらブログに書かなければならないだろうなという義務感が芽生えるほどの作品でして、ただいま久々に姿勢を正して机の前でキーボードを叩いております。

重版出来

重版出来! (1) (ビッグコミックス)

重版出来! (1) (ビッグコミックス)

ずっと「じゅうはんでき」だと思っておりまして、「じゅうはんしゅったい」と読むって知ったのは、割とここ数年の話だったりする私です。というか、書店にいたとき、電話で出版社に散々「じゅうはんできはいつですか?」って聞いてたけど、出版社の電話の人も「じゅうはんできは21日ですねー」とか絶対言ってた気がするんだよな。こっちに合わせてくれてたのかもしれんが、少なくとも「しゅったい」という言葉は聞いたこと無いですよ。
というわけで書店員なら誰もが知ってる出版業界用語「重版出来」がそのままタイトルとなったコミックです。
重版というのは部数を増刷するということなので売上好調の印ですから、『重版出来』は、出版社も書店も著者もみんな聞いただけでハッピーになれるという魔法の言葉なんですね。
というのも実は現在日本では出版されるタイトルの70%が重版されず、初版が刷られてそのまま絶版になるという運命を辿っているからでして、普通に売ってただけだと本当に初版止まりになってしまうのです。でも知られて無いだけで、本当に素晴らしい作品なのに、なかなか売れ行きが伸びなくて重版にならない作品は実際には結構あります。
この『重版出来!』は『タンポポ鉄道』という架空の漫画作品を、編集者と営業と書店員の熱意で売れる作品に変えていくという、この業界関係者だと泣かずにはおれなくなる胸熱の作品でして、ちょっとね、これはやばいですよ。涙腺崩壊的に。
こんなにいい漫画が売れないなんて許せませんので、みなさんぜひ買って読んでみてください。

理想の書店―高く掲げよう「お客さま第一」の旗 (書店大戦シリーズ)

理想の書店―高く掲げよう「お客さま第一」の旗 (書店大戦シリーズ)

書店コンサルタントの青田さんの最新刊です。これまでの著作を読まれた方はご存知だと思いますが、大上段の文化論的な側面からのみで書店を語る本が多い中、青田さんは書店の経営の現場目線から書店を語られます。現場や書店にいらっしゃるお客様をよくご存知だからこそ、流行だけを追ったような実体の無い安易なセレクトショップや、ブランドによる集客力に安住して何の工夫もないような有名書店には、厳しいプロの目線を投げかけます。
そういう、書店に対するものの見方と言いますか、お客様第一の経営目線の考え方というのは、私の書店観と結構共通するところも多く、いつも色々と勉強させていただいております。ストアコンパリズンという言葉も青田さんの本から学んだのでありまして、私が全国各地の書店を見てまわっては気になったところをレポートしていたのも、青田さんの本から影響を受けていたのかもしれません。
で、この本は、その青田さんご自身によるストアコンパリズンなのです。新文化にも連載されていた内容も加筆されて収録されていますが、この店いいね!という学ぶべき書店事例が、いっぱい掲載されています。書店員は必読ではないでしょうか?
ちなみにどんな書店が掲載されているのかどれだけの書店の事例が収録されているのか、ちょっと地図にまとめてみました。
https://maps.google.co.jp/maps/ms?msa=0&msid=213002731231959652749.0004d95c9013cdb20fae4
私も行ったことの無い店が多いので、このリストの店舗に訪ねてみたいと思っています。

ここ最近読んだ本を。

今回は江戸川乱歩がテーマで長編でした。私もポプラ社版の少年探偵団シリーズ(黄金仮面のマーク)は、すっかりはまって全巻読破したものです。このビブリア4巻でも謎を解くキーとして登場する『大金塊』は、その中でも最初に読んだやつで凄く好きな作品だったので、ちょっと感慨深かったですね。ちなみに少年探偵団シリーズで最後に読んだのは確か『死の十字路』だったか『魔術師』だったか。
今作はついにラスボスのあの人が登場しました。そんなに悪い人じゃない気がするが、これからどんな風に展開していくのか楽しみ。
評価A-
月とにほんご 中国嫁日本語学校日記

月とにほんご 中国嫁日本語学校日記

日本人の知らない日本語」の中国嫁版です。中国嫁日記の番外編とも言えますか。まあ、そんな作品でした。評価B
無限の住人(30) <完> (アフタヌーンKC)

無限の住人(30) <完> (アフタヌーンKC)

ついに完結しました。ということであとがき見て驚いたのですが、連載開始したのが何と19年前…。19年前かぁ……、って!まだ学生やってたときか!いやこれは本当に長い間おつかれさまでした。巣晴らしい作品をありがとうございました。評価A
本屋の森のあかり(12)<完> (KC KISS)

本屋の森のあかり(12)<完> (KC KISS)

完結と言えば、この作品もいつの間にか完結していることに先月気付きあわてて読みました。以前アメトークでケンドーこばやしが、少女マンガというものは、必ず主人公のヒロインことを好きなやつは、最初から最後までヒロインに相手にしてもらえず、不幸に終わるという恐ろしい代物だ、と断言しておりましたが、この作品については緑が完全にそうなっていて、アンチ寺山派の私としては憤懣やるかたないです。ガラスの仮面の桜小路君も心配だな。評価B+古書店を舞台に、古書店主の年上のヒロインと甘々な関係になる草食系男子くんという作品が好きな方はどうぞ。私はちょっと求めてる方向性が違ったな。評価C+
さよならドビュッシー (宝島社文庫)

さよならドビュッシー (宝島社文庫)

映画化に合わせて読んでみました。音楽×ミステリという小説で、ミステリ部分は相当強引…、な作品でしたが、エンタテイメントに徹していて面白かったですね。映画も割りと評判いいみたいですね。評価B
シューマンの指 (講談社文庫)

シューマンの指 (講談社文庫)

同じく音楽×ミステリなんですが、ひたすらシューマンを絶賛し続ける小説でした。もう、とにかくどれだけシューマン好きなんだと。評価C+
シャイロックの子供たち (文春文庫)

シャイロックの子供たち (文春文庫)

群像モノとして出色の出来、という話を聞いたので読んでみました。池井戸潤さんは初めて読んだのですが、横山秀夫=警察小説という方程式があるとすると、それがそのまま池井戸潤=銀行小説になったような読後感でした。私には銀行は勤まらないですね。
評価B+
果つる底なき (講談社文庫)

果つる底なき (講談社文庫)

そういえば、この作品も読んだんだった。今思い出しました。

ロクヨン

64(ロクヨン)

64(ロクヨン)

横山秀夫さん読むのは久々ですが、何というか、いい意味で変わってないです。横山節炸裂な作品でした。完成度も高いです。
ただ、刑事部と警務部の対立とかどうでもいいよとか、抗議文預かるとか預からないとか面子とかどうでもいいよとか、そんなに身内が信用できないなら仕事やめろよ、とか普通に思ってしまう私は残念なことに警察小説が好きではありません。まあ、こういう職場における政治力学が嫌いで、そういうのに無縁でいようとするから、いつまでたってもうだつが上がらない仕事人生を送っているのかも知れないのですが、そんな私が読んでもこの本は相当面白かったので、たまらない人にはたまらない傑作になっているかと思います。
評価A