新説 東京地下要塞 ― 隠された巨大地下ネットワークの真実

新説 東京地下要塞 ― 隠された巨大地下ネットワークの真実

東京地下シリーズもこれで5冊目なのですが、これまでの中では最も面白くない一冊。最初の二冊は新潮文庫になっていますので、ご存知の方も多いと思いますが、非常に衝撃的かつ魅力的な内容でした。東京の地下鉄(東京メトロ・都営)というのは、もともと戦前に軍事目的で作られた地下道を再利用したものであり、現在にいたってもなお地下鉄とは別に「街路」と呼ばれる地下幹線道路が、首都の地下に縦横無尽に張り巡らされていて、国民には存在が伏せられている。というのがその骨子。一見この信じがたい説が、膨大な図面の傍証より徐々に明らかにされていく過程が記されていて、近年まれにみるリアル陰謀論と化した傑作ルポになっていたのでした。
本作は、池袋と新宿の地下の状況についての傍証と地下鉄建設の歴史的経緯を再構築するという内容。地下3階までしか存在しないことになっている池袋のサンシャイン60の地下4階に、秘密の変電所が隠されていて送電先も秘密になっているという驚きの新事実が今回の目玉。何と巣鴨拘置所には13年間、収監者ゼロ、服役者ゼロというわけの分からない期間が存在し、無人塀の中でおこなわれていた「何か」が、これに関連するのではないかというのが著者の推理。
このへんまではめちゃくちゃ面白かったのですが、後半、地下鉄建設が後藤新平原敬の政争の道具と化していた話や星亨が憲政党の天下掌握のために秘密地下鉄建設を画策していた、などは推測が多くてトンデモの域をでていません。かつて丸の内が三菱の所有だったのにずっと開発されずに放置されて野原だったことがあり、それを当時責められた岩崎弥之助が「竹でも植えて虎でも飼うさ」と笑ってはぐらかしたというエピソードがあるのですが、著者はこれについて「竹と言えば竹橋、虎と言えば虎ノ門を示している。これをつなぐと皇居の下を一直線につなぐ地下道になる。これは地下都市建設のために三菱が丸の内開発に動けなかったことを示しており、岩崎から山県有朋への「早く決めろ」の暗号となっている」と結論します。戦前、鉄道事業というのが軍事産業そのものであったということは非常によくわかりましたが、後半は万事こんな調子で結構うそ臭い話が多く、結果的に微妙な本になってしまいました。評価B