くすみ書房
今日は札幌にある小さな町の本屋さん「くすみ書房」です。
昨年、この書店ほど全国的にマスコミに注目された店はないのではないでしょうか?朝日新聞にとりあげられ、ダカーポに特集が組まれ、日書連の懸賞論文「私の書店論」で特選を受賞するなど、華々しい活躍ぶりでした。何故そこまでこの店は注目されたのでしょうか?今日はその秘密を探っていきましょう。
札幌地下鉄の琴似という駅を降りて5分ほどあるいたところに、このくすみ書房があります。駅には近いのですが、駅前、というほど近くもない微妙な立地です。以前にも紹介しましたが、札幌は現在大型書店の出店ラッシュが続いており、それはこの琴似周辺も例外ではありません。駅前には200坪ある文教堂と300坪のTSUTAYAが出店し、お隣の発寒地区に昨秋できたイオンモールにも大型の未来屋書店が入っています。極めつけは今年の春に新川に日本最大級の書店コーチャンフォーまでが出店される予定なのですから、シャレになりません。「小さな町の本屋さん」のくすみ書房はどのような工夫をしているのでしょうか?
さて私がくすみ書房に来てみると、入口にはでかでかとイベント告知がはってありました。私が訪ねた日はちょうど永六輔のサイン会の前の日のようなのでした。永六輔?そのようなビッグネームがこんな小さな本屋さんに??ちょっと驚きです。聞くと、整理券はすべて配布済みなので当日は満員になるでしょうが、いいお話が聞けるので立ち見でよければ是非来てくださいとのこと。ますます驚きです。
店内に入ってみました。大きさは約70坪ぐらいでしょうか、奥のほうは文房具屋さんになっている小さな本屋さんです。入ってすぐ右側は新刊の平台と棚です。お、晶文社の新刊コーナーがあります。岩波の新刊もあるぞ。駅前の文教堂にはなかった気がします。新刊平台に積まれている本も独特ですね。
さてまずは右正面に見える『本屋のオヤジのおせっかい “中学生はこれを読め!”』棚を見に行きましょう。この棚は朝日新聞にも取り上げられ、全国的に有名になった企画棚です。「読書離れ」とかよく言われている割には、実は書店には中学生に読んでほしい本を置いていない…。それなら中学生が読んでおもしろい本を置いてやろうやんけ!ということで、500タイトルが選定されて置かれています。なかなかこのセレクション(http://www.k2.dion.ne.jp/~sa-shibu/koreyomelist.html)がよく考えられていて、絵本に漫画に詩集に小説に、と渾然一体となっている棚になっていて見てると結構楽しいです。なるほど、そう来たか、みたいな。ちなみにこの企画は北海道新聞社から
- 作者: 北海道書店商業組合
- 出版社/メーカー: 北海道新聞社
- 発売日: 2007/09
- メディア: 単行本
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さて、この棚の右側は児童書棚です。狭いながらも袋小路をキッズスペースのようにうまく使っています。ちなみにこの児童書売場だけBGMが別になっていて「♪北風〜小僧の寒太郎〜」が流れておりました。一番奥にラジカセを置いているのですね。
そのまま店内奥のほうに壁沿いに歩いてみましょう。この壁面棚は精神系の人文書やノンフィクションが中心です。ものすごいPOPの展開で思わず手にとってしまいます。おや?見慣れない本が一冊積んであります。「マジックスパイス」というタイトル。POPには「気の弱い人は読まないでください」とあって、何だか気になりますね。書店員のいつもの習性でまずは奥付をチェック。ややや、これは自費出版本ではないですか。どうやら札幌のカリスマスープカレー屋さんの方が書いた本らしいのですが、うわ!発行が「久住印刷」になっている!おー、この店は本を売るだけじゃなくて自店で本も作ってたんですね。
さてその向かいには、ダカーポにも取り上げられ、話題になりました「売れない文庫フェア」があります。普通、本屋さんでは、文庫棚を作るときに売れるレーベルから作っていくものですが、つまり、くすみ書房では売れてない文庫からそろえていくという真逆のことをやっているというわけ。そのため、ちくま学芸文庫だの中公文庫だの岩波文庫だの、普段みかけない文庫が勢ぞろい!これは壮観です。新潮文庫にいたっても、「新潮文庫の売れない100冊」コーナーを作っており、ランクが全くついてない絶版になりそうなタイトルばかりそろえた棚を作っています。ちなみに「新潮文庫売れない100冊」の中で一番売れたのは下村湖人の「次郎物語」なんだそうですが、確かにこれはなかなか見かけないしいいところに目をつけたかも。こんなことをやっとる本屋さんは全国探してもここだけでしょう。この無茶苦茶な品揃えを実施した結果、なんと文庫の売上前年比は280%を記録したというのですから、まさにオンリーワンです。
それにしても、このくすみ書房の意表をついた個性的な品揃えの発想の源はどこから来ているのでしょうか?久住さんの論文を読むと非常にリアルに伝わってくるのですが、町の小さな本屋さんが厳しい商環境の中で生き残りをはかろうとするには、こういうゲリラ戦術以外に道がなかったようなのです。くすみ書房の生き残り戦略とはこうでした。
■普通に小さな町の本屋をやっていても、お客さんは大書店に流れてしまう。⇒■ベストセラーの仕入力は大書店に絶対に勝てない。⇒■ベストセラーとは別のところで差別化するしかない。⇒■逆に大手書店では絶対にやらないようなことをやって集客しよう。⇒■イベントを実施したり話題になるゲリラ的なフェアを作ってマスコミに取材に来てもらおう!⇒■結果的に宣伝になり集客できる!
つまり昨年あれほどマスコミに何度も登場したのも、実はくすみ書房の生き残り戦略の一環だったというわけですね。個性的なことをしていたからマスコミに取材された、のではなく、マスコミに取材してもらうために計画的に個性的なことをした、というのが実際のところなのです。もちろん、マスコミも自分で呼ぶのです。それにしても言うは易しですが、それを成功させるとは並大抵の力量ではありません。この店は大書店に対抗するためのゲリラ戦術のお手本のようなお店になっており、本当に勉強になりました。総合評価80点