本屋大賞メタル斬り(前編)

chakichaki)  みなさんこんばんわ。毎年恒例となりました本屋大賞の予想ですが、今年は趣向を変え、同じく本屋大賞投票権を持っておりますmaruruuさんをゲストにお招きしまして、メッタ斬り形式の対談でやることにいたしました。豊崎さんと大森さんのようなレベルの高い対談にはなりようがありませんので、そもそも期待なさらないよう、あらかじめご了承ください。maruruuさん、よろしくおねがいします。
maruruu) よろしくおねがいしまーす。
  そもそも、何でmaruruuさんと一緒にメッタ斬りをやることになったかというと、今年は全部本を買い揃えるのは、ちょっと厳しいから、買うのを分担しません?ってとこから始まったんですよね。実は経済的な事情だった(笑)。今年のノミネート作は全部買い揃えると、2万円超すんだよ、これは過去最高額。「一瞬の風になれ」で三分冊があったときでも2万円こえなかったのに。

第1回 \17,865 第2回 \16,170 第3回 \17,440 第4回 \19,110 第5回 \17,930 第6回 \21.209

  今年は大作が多かったですから
  本屋大賞に参加するのって結構お金がかかる。このご時世、薄給の書店員にとって、結構この額は大きいよ。
  そう、その割には、今回レベル低かったんですよねー。
  おっと、いきなり毒舌ですね。じゃあちょっと個別に見ていきましょうか。まずは、前回チャンピオンの伊坂幸太郎から。

モダンタイムス (Morning NOVELS)

モダンタイムス (Morning NOVELS)

評者 評価 予想
chakichaki A− ×
maruruu A− ×

  「モダンタイムス」はねー、うーん、なんか私は、あんまりもひとつのめり込めなかったというか、長い!とりあえず長い!と思った。
  そう?
  えぇっ!?長いですよ。長く無かったですか?さては伊坂が好きなんですね。
  いや、伊坂は好きですけど、前作の「魔王」は好きじゃ無かったよ。
  「魔王」の何十年後かの設定の話なんだけど、「魔王」とあんまり関係ない気がしますよね。え?これのどこが続編なん?みたいな感じ。
  もう「魔王」とは違う話になってるよ。国家の陰謀に巻き込まれる主人公っていう筋は「ゴールデンスランバー」にむしろ似てて、面白かったけど。
  私はあんまり苦手でした。でも主人公の能力が顕れて、それがまあ最終的にいい方向に行くっていうのはよかったかな。あと奥さんが異常に強いところ。でも何故強いのかその謎は最後まで解けない(笑)
  そうそう(笑)。
  やっぱすごい文章力とか構成力はあって、まあまあ、いいんですけどー、いいんですけどー、そこまでかなぁ。
  去年の「ゴールデンスランバー」があるからどうしても比べちゃうね。あれに比べるとやはり若干劣るかなと。
  そうですね。「ゴールデンスランバー」があるから、私の中でどうしても盛り上がらなかったというのはあるかも。全く別のテーマとかであったら違っていたけど。
  二連覇は無さそうですね。

出星前夜

出星前夜

評者 評価 予想
chakichaki B+
maruruu A− ×

  はい、次は島原の乱を描いた「出星前夜」、本屋大賞の前哨戦とも言われているキノベスでは一位を獲った作品です。ご存知の方も多いと思いますが、キノベスの1位作品は、本屋大賞でも毎年非常によい成績をおさめています。ちなみに下記の表は歴代キノベス一位が、本屋大賞でどういう成績だったかをみたもの。本作品の実力は侮れません。

第一回 博士の愛した数式 1位
第二回 夜のピクニック 1位
第三回 サウスバウンド 2位
第四回 鴨川ホルモー 6位
第五回 わたしを離さないで 対象外
第六回 出星前夜 ??位

  意外に面白かったです。さすがキノベス1位!でもホントにこれは「歴史」でした。丁寧に丁寧に「歴史」が書いてあって司馬遼を読むような感じです。好きな人は好きでしょうね。
  俺はちょっとあんまりだったなぁ。玄人好みだとは思うけど。
  歴史が好きな男の人には受けるかな。でも万人向けではない、みたいな。
  なんかね歴史の教科書を読んでるみたいだったよ。ずーっと歴史事実が書かれていて、どのへんが小説なん?って思ってしまって。
  今回、歴史モノでは「のぼうの城」と「テンペスト」があったじゃないですか。それで余計そう思ったんじゃないですか?
  「のぼうの城」と「テンペスト」に比べたら、これは歴史の教科書以外の何ものでもないよ!
  エンタメ性はまったくないですよね。本当に歴史に忠実でした。でもよかったですよ、文章もやっぱり上手なので。楽しくは読めないけど。
  天草四郎が全然英雄として描かれていないのは、ちょっと面白かったけどね。むしろただの足手まといになってたし。
  確かに、普通だったら天草四郎はカリスマで何でもできるすごい人、になるのにそうじゃないのは新鮮でした。
  まあでもさすがに1位は無いかな。キノベスなので3位ぐらいはあるかもしれないと思って▲をつけておきました。読む順番が違ってたら評価も変わってたかもしれないけど、これを最後に読んでしまったのは失敗だったなぁ。
  二人とも最後でしたからねぇ。この太さに慄いて何となく二人とも避けていたという(笑)どっちがこの本を買うかでも相当揉めたし。
  しかも間違って、二人とも買ってしまったし(笑)

のぼうの城

のぼうの城

評者 評価 予想
chakichaki
maruruu

  では、「のぼうの城」いってみましょう。これはmaruruuさんが本命◎で、俺が対抗○にしてます。
  話題になった割には、何の賞もとってないんですよ。
  問題はすでに売れすぎてるってことですね。かなり今さら感がある。出たの、一昨年の12月ですよ。
  そうですね、CMも最近見なくなったし、ブームは去った感はあります。でも、これに映像化がからむともう一度いけるんじゃないですかね。
  どうだろ?水攻めの話ですよ?昔からハリウッドでも、「タイタニック」にしろ「ウォーターワールド」にしろ、水ものは莫大にお金がかかるって言うから、それは難しいかもよ。ただ、今回の本屋大賞は、この作品が最高レベルなんですよ。内容としていまひとつ盛り上がりにかける部分はあるのだけれど、 登場キャラクターが主人公はじめ、ヒロインのお姫様も、敵である石田三成も、みんなよくて、読後感が「ああよかったな」と幸せになれる。
  キャラクターは魅力的やし、ストーリーも読み応えもありました。直木賞も残念な結果だったので、これはかなり可能性があるのでは?

テンペスト 上 若夏の巻

テンペスト 上 若夏の巻

テンペスト 下 花風の巻

テンペスト 下 花風の巻

評者 評価 予想
chakichaki ×
maruruu ×

  では、今回の本屋大賞最大の問題作(笑)「テンペスト」。これはひどかった。
  えー!?そうですか?私そこまでひどいとは思わなかった。やっぱりコバルト好きなんで(笑)
  だってコバルトですよ!コバルトなのに15万部売れたって書いてる。ほんまかいや。
  でもラノベから売れてくるパターンって多いですよ。
  そうなんですよね。馬鹿にできない勢力なんですよね。「図書館戦争」なんかも2年前の本屋大賞で5位に入ってるからね。
  はいはい、私「図書館戦争」好きです!やっぱ、コバルト好きな女子には、あれは面白いんですよ。「テンペスト」は、「ジャパネスク」と「ざ・ちぇんじ」を大長編にしたみたいでした。まるで氷室冴子がのりうつったかのよう。
  好きか嫌いかで言うと、もちろん好きなんですよ。「ジャパネスク人妻編」は俺も買ってるし。でも本屋大賞で万人にオススメできるかというと…
  オススメはできないですねー(笑)、特に男子にはオススメできない。でもCoccoさんの帯に、「男子がこんなファンタジー読むのか」みたいなのが書いてあったじゃないですか。あり得ないですよ(笑)
  あり得ない、これ読めるの女子だけでしょ(笑)それにこの本をCoccoさんに持って行った人もすごいよね。
  沖縄の人っていうだけで持っていってますよね。Coccoさんがこんなん読んだんか(笑)って、まったくコバルトとは対極みたいな人なんですけど。
  要は女子向けキャラ萌え小説ですからね。
  でも私、あんまり主人公のキャラクターに共感できなかったんですよ。同じ女なのに。
  それはそうですよ。あの主人公、どうかと思うよ(笑)全く応援したくならないんだ、これが。むしろ敵役の聞得大君を応援したくなる。
  そうそう、そうなんですよ。めっちゃかわいそうなんですよね。最初ヒールで出てきて絶対的な権力をもってるのに、どんどんどんどん落ちぶれていく。
  その落ちぶれ方が半端じゃない。
  ホントにひどいんですよね!意外に素直でいい人なのにね(笑)ずっと「わらわは、わらわは〜」て言ってましたね。
  薩摩のお侍さんも、何がいいのかさっぱりわかんなかったです。
  会った途端に一目惚れとか意味わからんし(笑)
  でもまさか、そんなコバルトな内容だとは、表紙を見てもわからないですよね。装丁に騙された人も多いんじゃないですか?俺は浅田次郎の「蒼穹の昴」を読む覚悟で読み始めたんですよ!
  そうそうそう、出だしは、そんな感じだったんですよ。主人公誕生のシーンが、壮大な始まり方でオオッ!って。Chakichakiさんがこれコバルトみたいだって言ってたのを聞いてたので、これのどのへんがコバルトなんやろと最初は思ってたのに、アレ?やっぱりコバルトやん、みたいな。下巻とかひどかったですね。
テンペスト」は、いろんな意味でつっこみどころ満載で、もりあがりましたねぇ。でもこれが本屋大賞とったら、ちょっと驚きますよ。
  これはさすがにないでしょう。これがとったら「maruruu困っちゃう〜」って私言いますよ。
(後編に続く)